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韓国ニュース

ポスコ 刑事訴訟第一審


大邱(テグ)地方裁判所
11刑事部
判決

事件  2007449

ガ.特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反(背任)
                       
  (認定された罪名業務上背任)
              
ナ.業務上背任
              
ダ.不正競争防止および営業秘密保護に関する法律違反

被告人  1.ガ.ダ  A

     2.ナ.ダ  B

検事   キムジョングン

弁護人  弁護人法務法人誠 弁護士ギムジンソク(被告たちのために)
       
    弁護士イサンソン(被告人 Aのために)

判決宣告   200848

 

主文

被告人Aを懲役 3年に, 被告人Bを懲役 1 6ヶ月に各処する。

この判決宣告前の拘禁日数、各182日を被告の上記の各刑に算入する。

ただし、被告人Bについては、この判決確定の日から3年間、刑の執行を猶予する。

被告人Bに200時間の社会奉仕を命じる。

押収された新成分系方向性電磁鋼板の製造技術の開発1巻(証第3号)、方向性電磁鋼板の焼鈍設備で混合分位機ガス処理方法の研究1巻(証第4号)、・・・・・・・・・・・を被告人Aから没収する。

理由

犯罪事実

被告人Aは、被害会社である株式会社ポスコの技術開発室電磁鋼板推進組班長として勤務していたが、2006831日頃退職して、現在、技術コンサルティング会社であるESTC社の社長を務めている者で、被告人Bはポスコの技術研究所電磁鋼板研究グループ研究員として勤務していたが、200599日に退職して、現在上記のESTC社の常務取締役として勤務している者で、誰でも不正な利益を得るか、または企業に損害を与える目的で、その企業に有用な営業秘密を取得・使用・漏洩したり、外国で使用したり、外国で使用されることを知りながら第三者に漏洩してはならないし、また、被告人らは、ポスコの方向性電磁鋼板の製造技術に関するデータは、すべて業務上の営業秘密として扱われ、無断で複製・コピー・搬出が禁止されていることをよく知っていたし、このような内容を熟知して営業秘密を保護するセキュリティ誓約書まで作成したので、ポスコの営業秘密資料を取得・使用したり、外部に流出させてはならない業務上の任務があるにもかかわらずその任務に違反して、

1.被告人Aは、
 
 20068月頃、浦項市南区の被害会社の電磁鋼板推進組オフィスで、被害会社から19961月頃から20063月頃まで、総研究員150人、研究開発費4034,800万ウォン相当を投入して開発した営業秘密である低温加熱方向性電磁鋼板、高級無方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営関連資料一式を保管していることを機に、これを持ち出して、退職した後、将来の技術コンサルティングなどの名目で中国所在の鉄鋼社らに、上記の営業秘密を漏洩して不正な利益を取得することを心に決めて、

ガ.20068月上旬日付不詳、電磁鋼板推進組オフィスで、被害会社の営業秘密である「新成分系の方向性電磁鋼板の製造技術開発」という方向性電磁鋼板の製造基準に関する研究報告書を無断で持ち出したことをはじめ、その時から20068月日付不詳まで、別紙犯罪一覧表(1)の順番1?13記載のように全13件の技術情報を無断で持ち出し、

ナ.20068月下旬日付不詳、同じ場所で、被害会社の業務用ノートパソコンなどに保管されている営業秘密である「Base Coating FT-IR(発表).ppt」(方向性電磁鋼板の表面処理関連資料)という名前のコンピュータのファイルを所持していたパーソナルUSBメモリに無断でコピーして移して持ち出したのをはじめ、別紙犯罪一覧表(2)記載のコンピュータファイル243個に含まれている方向性電磁鋼板などの製造技術、設備写真、経営情報に関する各種のファイル数量不詳をコピーして持ち出し、

被害会社の営業秘密を取得するとともに、上記営業秘密の金額不詳の市場交換価格相当の財産上の利益を取得し、被害会社に供給増加と競合他社の競争力強化に生じる金額不詳の利益減少分相当の損害を加え、

2.被告人らは共謀して、

同年10月頃、浦項市南区上大洞(サンデドン)にある日松亭(ソンジョン)韓国式食堂で、被告人Aが上記のように取り出した方向性電磁鋼板の製造技術などに関する資料を、中国の鉄鋼会社に移転するとともに、操業ノウハウ等についてのコンサルティングをし、その代価として巨額の不正な利益を取得することで合意し、その時から、被告人が一緒に上記の情報を買収する中国の鉄鋼メーカーを探していたところ、ついに2007510日に被告人Aが上記のように流出した方向性電磁鋼板の製造技術などについての資料一切を、中国上海市○○○に渡して、3年間ほど宝山鋼鉄従業員を対象に、技術コンサルティングをする対価として3回にわたり計550万ドル(約50億ウォン)を受け取ることにする内容のコンサルティング契約を上記の宝山鋼鉄の従業員(Zhang Pi Jun)と締結した後、

ガ.2007515日頃、中国上海にあるオフィスでは、被告人Aが被害会社の営業秘密資料である「p's SL-Process Research report 1st」(低温加熱方向性電磁鋼板工程研究報告書)など4冊の冊子と、上記第1のナ項記載のように流出した資料のうち、別紙犯罪一覧表(2)記載のコンピュータファイル243個が含まれている方向性電磁鋼板などの製造技術、設備写真、経営情報に関する各種のファイル数量不詳が保存されているノートパソコンを上記に渡し、外国で使用することを知った上で被害会社の営業秘密を上記のように漏洩して、

ナ.同月30日頃、前項と同じ場所で、被告人Aが被害会社の営業秘密である「P's Purchasing Specifications1 DCNL」(方向性電磁鋼板製造設備の購入仕様書)など6冊の冊子を同じ方法で、上記チャンヒジョンに渡して、外国で使用されることを知った上で被害会社の営業秘密を上記のように漏洩して、

3.被告人Bは、
ガ.20059月上旬日付不詳、被害会社の技術研究所内電磁鋼板研究グループオフィスでは、退職して不正な利益を得るか、または被害会社に損害を加える目的で、被害会社の営業秘密である「新低温HGO資料」という書類を無断で持ち出したことをはじめ、その時から20059月初旬頃まで、別紙犯罪一覧表(1)の番号14ないし44記載のように営業秘密である方向性電磁鋼板の製造関連技術情報31件を無断で持ち出し、

ナ.20059月上旬日付不詳、電磁鋼板の研究グループのオフィスを退職し、不正な利益を得るか、または被害会社に損害を加える目的で、自分の個人向けノートパソコンに業務上保管していた被害会社の営業秘密である方向性電磁鋼板設備情報に関するファイルの「Coater設備制御方法(事例).doc」というファイルを削除したり会社に返却せず、そのまま保存して持ち出したのをはじめ、別紙犯罪一覧表(3)の番号1?5記載のように被害会社の営業秘密5件を持ち出し、

被害会社の営業秘密を取得するとともに、上記営業秘密の金額不詳の市場交換価格相当の財産上の利益を取得し、被害会社に供給増加と競合他社の競争力強化に生じる金額不詳の利益減少分相当の損害を加え、

ダ.2007620日、釜山南区にあるESTC社のオフィスで被害会社の営業秘密である方向性電磁鋼板の製造技術に関する「方向性Al分析法」という資料を、上記宝山鋼鉄の教育資料を作成するために編集した後、中国上海市での講義資料として使用することで被害会社の営業秘密を使用したのをはじめ、同じ方法で別紙犯罪一覧表(3)番号6,7記載のように被害会社の営業秘密を使用した。

証拠の要旨

1.被告人らの各一部法廷陳述
1
.第1回公判調書中、被告人らの各一部陳述記載

1. 証人     の各法廷陳述
1
.第2回公判調書証人    の陳述記載
1
.被告人らに対する各検察被疑者尋問調書の一部陳述記載
1
.      の各検察陳述調書
1
.○○○の事実照会結果書
1
.各調査報告および添付文書
1
.各押収調書及び押収リスト

1.被告人Aのセキュリティ誓約書、営業秘密の保護誓約書、被告人Bのセキュリティ誓約書、被告人Aの銀行口座の取引履歴の資料、被告人A、Bのメール出力データ、出入国照会、他発送金明細の履歴データ、各ジャーナルのコピー、保安規定、セキュリティガイドライン、出入管理ガイドライン、主要資料貸出承認書様式、研究情報の管理基準、2001年の技術研究所のセキュリティ同実績資料、○○○方向性電磁鋼板技術開発コストの計算

1.押収された総リスト記載の各押収物(証第1?69号証)

法令の適用

1.犯罪事実に対応する法条
ガ.各営業秘密を取得・使用の点、各包括して旧不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(2007.12.21法律第8767号で改正される前のもの、以下同じ)第18条第2項(被告人Aの判示第1の営業秘密の取得のポイント、被告人Bの判示第3の営業秘密を取得・使用のポイントについて)

ナ.各業務上背任の点、各包括して刑法第356条、第355条第2

ダ.各営業秘密国外漏洩の点、各包括して旧不正競争防止および営業秘密保護に関する法律第18条第1項、刑法第30

2.観念的競合
 
各刑法第40条、第50条(各営業秘密を取得・使用に起因する不正競争防止および営業秘密保護に関する法律違反罪と業務上背任罪相互、各刑がより重い業務上背任罪に定める刑で処罰)

3.刑の選択
 
各懲役刑を選択する

4.競合犯加重

 各刑法第37条前段、第38条第1項第2号、第50条(各刑がより重い業務上背任罪に定めた刑に競合犯加重)

5.未決拘禁日数の算入
 
各刑法第57

6.執行猶予
 
刑法第62条第1項(被告人B、下記量刑理由の有利な情状酌量)

 

7.社会奉仕命令
 
 刑法第62条の2保護観察等に関する法律第59条(被告人B)

8.没収
 
各刑法第48条第1項第1

被告人と弁護人の主張と判断

1. 公訴事実不特定かどうかの判断
ガ.主張の要旨

被告人Aの弁護人は、被告人Aが流出したという資料についてタイトルとファイル名だけが表示されているだけでは、どの部分がポスコの独自の営業秘密であることを、その営業秘密の内容と範囲が具体的に記載されていないので、公訴事実が特定されていない場合に該当し、公訴を棄却されなければならないと主張する。

ナ.判断
1)刑事訴訟法第254条第4項で犯罪の日時・場所と方法を明示して公訴事実を特定するような趣旨は、裁判所に対して審判の対象を限定して被告人に防御の範囲を特定し、その防御権行使を容易にするためにあるといえるので、公訴申し立てされた犯罪の性格に照らしてその公訴の原因になった事実を他の事実と区別することができるほどにその日時・場所・方法・目的などを指摘して特定すれば充分で、その一部が多少不明確としても、それと一緒に指摘された他の事項によって、その公訴事実を特定することができ、そして、被告人の防御権行使に支障がなければ公訴提起の効力には影響がない(最高裁判所2007426日宣告2007428判決、20051222日宣告20033984判決など参照)。

2)被告人Aの公訴事実は、被告人Aがポスコの営業秘密に該当する別紙犯罪一覧表(1)の番号1?13記載の文書と犯罪一覧表(2)記載のコンピュータファイルなどを持ち出し、これを中国にある宝山鋼鉄に渡すことにより、ポスコの営業秘密を取得し、漏洩したということだったところ、上記の各犯罪一覧表には、ドキュメントやファイルごとに主な内容は、ファイルの種類、営業秘密該当理由、経済的価値、実際の適用状況等について具体的に記載されている点、さらに、被告人Aは退職直前にオフィスの上の文書を取り出して家に保管し、上記のファイルもあらかじめ準備したUSBメモリスティックにコピーして持ち出し、自分のコンピュータにコピーして保管しておいたので、被告人の防御権行使に支障がもたらされたと見ることも難しい点などを照らして見たとき、被告人Aの公訴事実は、特定されたと見なされなければならないことなので、被告人Aの弁護人のこの部分の主張は理由がない。

2.営業秘密性の判断
ガ.主張の要旨
  被告人と弁護人は、被告人らがポスコを退職し、別紙の各犯罪一覧表記載のような低温加熱方向性電磁鋼板、高級無方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営関連資料を持ち出し、これを中国の宝山鋼鉄に渡し与えた事実は認めたが、被告人らが流出した低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料(以下「この事件の資料」という。)は、ポスコが新日鉄(NSC)の専任技術者たちから違法に取得したものであり、ポスコが新日鉄とは別の固有性や進歩性のある技術を開発したのではなく新日鉄の技術をそのまま使用しているので、ポスコの営業秘密とすることができず、さらに○○○の上の技術は現在、特許期間が終了して公知の技術に該当すると主張する。

ナ.判断
1)認定事実
 
 判示各証拠によれば、@ポスコは会社内部の技術情報について、セキュリティ評価を機密(S級) - 社外秘AA級) - 社外秘BB級) - 一般(C級)など4段階に分類して管理しており、その中で機密は会社の主要な経営戦略、技術戦略等の情報として担当者と直属の上司役員までのアクセスが機能して、社外秘Aは意思決定がされていない進行データ、人事データ、投資事業、研究開発成果、研究戦略等に関する情報として、関連部署関係者の間でのみ共有する必要があるデータであり、社外秘Bは通知など全職員が一緒に共有することができる情報として、対外的には秘密にしておくことが適切な情報であり、一般的な評価については、対外的に公表が可能な情報であるが、ポスコは、電磁鋼板の製造技術の方向性電磁鋼板の製造技術については、特に最高度のセキュリティ評価である機密(S級)に分類して極秘に管理しており、高級無方向性電磁鋼板の場合も社外秘Aで管理していること、Aポスコは全職員を対象にセキュリティ誓約書の徴収を受けて業務と関連して知得した技術情報を外部に流出したり、業務外で使用しないという誓約を受けているが、被告人Aは2006111日頃、セキュリティ誓約書を提出し、被告人Bも200425日頃、セキュリティ誓約書を提出しており、また、被告人Aは退職直前の2006829日頃会社勤務時知得した営業秘密を保有するか、保存せず、営業秘密に関するデータはすべて返却することはもちろん、主要営業秘密である電磁鋼板の製造技術をどのような方法でも、第三者に漏洩したり、これを利用した創業や競合他社への就職をしない旨の営業秘密保護の誓約書も提出していた事実、Bポスコは1990年代までは高温加熱法により方向性電磁鋼板を製造してきたが、1996年頃から低温加熱方式による方向性電磁鋼板の製造技術の研究開発に着手し、2000年に一般の方向性電磁鋼板の製造技術を開発して生産に適用し、2002年には高度な方向性電磁鋼板の製造技術を開発して、その時から低温加熱法のみを使用して方向性電磁鋼板を生産しており、生産量を増やすために、2004年に主要設備を増強し、2006年には17万トンの設備増強を最終完了し、その時から生産比率を大幅増やし始めた事実、Cポスコと新日鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、製造工程中脱窒化工程で差があるが、新日鉄の低温加熱法は、脱炭を先にして窒化をする方法(脱炭した後窒化、別名NAD法)で、それに応じて設備も脱炭台と窒化台が別途にあり、これに反してポスコの低温加熱法は、脱炭と窒化を同時にする方法(同時脱炭窒化、別名SDN法)で、別の窒化台がいらず簡単な設備で低温法を実装することができる事実、Dポスコは、上記SDN法について、国内および外国で特許出願したが、日本国内では、SDN法のような同時脱炭窒化コンセプト概念の特許(実際の生産には適用されていない)が新日鉄で一件出願されており、新日鉄との紛争を引き起こさないために特許を出願していない事実を、各認められる。

2)被告人らの主張に対する判断
(ガ)営業秘密とは一般的に知られておらず、独立した経済的価値を持ち、相当の努力により秘密として維持・管理された生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は経営上の情報をいうが、営業秘密の保有者である会社が従業員に秘密保持の義務を課すなどの技術情報を厳格に管理する以上リバースエンジニアリングが可能で、それによって技術情報の獲得が可能であるとしても、そのような事情だけでその技術情報を営業秘密として見ることに支障があるということができず、また、情報が「独立した経済的価値を持つ」という意味では、その情報の保有者がその情報の使用を介しての競争相手に対して競争上の利益を得ることができるか、またはその情報の取得や開発のためにかなりの費用や労力が必要ということだったところ、どのような情報でも上記のような要件をすべて備えたとすれば、上記の情報がすぐに営業活動に使用することができるほどの完成された段階に達していなかったり、実際、第三者には何の助けも与えず、誰でも試作品さえあれば実験を通して調べることができる情報であっても、上記の情報を営業秘密として表示するために障害となるものではない(大法院2008215日宣告20056223判決、20061027日宣告20046876判決、1999312日宣告984704判決など参照)。

(ナ)まず、被告人らが流出した事件のデータが営業秘密に該当するかについてみると、上記の各認定事実と各証拠に基づく次のような事情、すなわち、@ポスコは、この事件の資料について最高のセキュリティレベルの機密に分類して極秘に管理し、少なくとも社外秘Aに分類し、従業員を対象に保安誓約書と退職時の営業秘密の保護誓約書を提出されるなど、かなりの程度の秘密維持のための努力をしていたこと、A非公知性は、その情報が出版物などの媒体に載るなど不特定多数の者に知られていないため、所有者を通さず、その情報を通常入手できないのであれば充分なものであり、営業秘密として認められるために、被告人らの主張のように特別な固有性や進歩性を要するものではないが、この事件の資料は、ポスコで機密に分類されて、限られた業務担当者を除いた他の従業員のアクセスを制限しており、非公知性の要件も満たされていること、B被告人が退職しポスコから取り出したこの事件の資料は、低温加熱方向性電磁鋼板と高級無方向性電磁鋼板の製造技術(製造原理、製造基準、技術標準、作業標準に分類され、技術標準と作業標準は、通常操業ノウハウと呼ばれるもので公開せずに独自の機密情報として管理している)、設備及び経営に関する情報として、これらの資料は、新日鉄で特許を公開した一般的な製造原理や製造基準とは異なり、すべてポスコが高いレベルの方向性電磁鋼板を生産するために理論の探求と実験を通じて得られた成果物または生産ラインで繰り返された操業を介して多くの費用と試行錯誤を経ながら習得した操業ノウハウ、長年操業する銅を使用して設備を交換したり改良して得られた成果物または、長年の間、電磁鋼板の生産と販売に従事しながら得たノウハウで、独立した価値を持っており、そのほか、被告人らが流出した事件の資料の中には、現場と技術開発の過程での失敗事例まで含まれているが、これらの失敗事例も競合会社の立場では、試行錯誤を減らすに貢献して研究費や投資額を削減することができるようにしてくれるので、やはり経済的に価値があるとするものである点などを総合すると、被告人らが流出した事件の資料はすべて秘密管理性、非公知性、経済的有用性など不正競争防止および営業秘密保護などに関する法律で定められた営業秘密としての成立要件をすべて満たしているとする。

(ダ)次に、ポスコが新日鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を不法に取得し、現在に至るまで何の研究・開発の努力もせず、これをそのまま使用している旨の被告人の主張についてみると、これを認めるべき証拠がなく、ただ被告人提出の各証拠によれば、ポスコが低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を開発する当時新日鉄の退役技術者達や日本の技術コンサルティング会社と請負契約を締結して、これらから新日鉄の各種資料の他の情報を提供されたとみられる事情がいくつかみられるが、ポスコが数多くの技術者と研究者を動員して、長年の試行錯誤を経て、研究と実験を繰り返した末に新日鉄のいくつかの技術を応用したり、上記の技術に加えて、新日鉄とは別の独自の低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造技術を開発し、これで新日鉄のNAD法とは違う工程の独自のSDN法による低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術の製造基準や操業ノウハウを持つことになったので、ポスコの低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、ポスコの営業秘密と考えるべきだろう。

  また、被告人らは、自分たちが流出した事件の資料が新日鉄の技術であり、既に特許が終了した公知の技術とも主張するか、製造原理や製造基準の一部が特許などで公開されていても、きわめて広くて抽象的な範囲内でのみ公開されるものであり、この事件の資料は、すべてポスコで様々な実験や繰り返された操業結果をもとに作成した操業ノウハウ、設備、経営情報等に関するもので、特許で公開されていない資料である。

(ダ)次に、被告人らが流出した事件の資料はすべて、不正競争防止及び営業秘密保護などに関する法律で定められた営業秘密に該当し、被告人らはこのような事情を十分に認識していたと思うことが相当であり、その他新日鉄の技術であるとか公知の技術に該当すると見ることもできないので、被告人のこの部分の主張はすべて理由がない。

3.共謀かどうかの判断
ガ.主張の要旨
 
 被告人Bは、判示第2の犯罪事実に関連して20076月初旬頃、被告人Aが運営するESTC社に入社し、被告人Aがポスコから持ち出した低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料を持って教育資料を作成し、被告人Aと一緒に中国の宝山鋼鉄に行って従業員を相手に教育をした事実はあるが、被告人Aが宝山鋼鉄と技術移転の請負契約を締結し、低温加熱方向性電磁鋼板提起鋼板の製造技術などに関連する関連資料を宝山鋼鉄に渡した事実については、自分が入社する前の20075月頃に行われたものであり、全く知らず、ESTC社に入社して初めて判明したので、被告人Aと、上記犯行を共謀した事実はないと主張する。

ナ.判断
12人以上が共謀して犯罪に共同加工する共犯関係における共謀は法律上何らかの定形を必要とするのではなく、犯罪を共同実行する意思がある共犯者相互間に直接・間接的にその共同の実行に関する暗黙の意思連絡があれば十分であり、これに対する直接の証拠がなくても状況の事実と経験則によってこれを認めることができ、共謀による犯罪の共同実行は、すべての共犯者が自らの犯罪の構成要件を実現することを前提にせず、その実現の行為をする共犯者にその行為の決定を強化するように協力することでも可能であり、これに該当するかどうかは、行為の結果に対する各自の理解度、行為の加担の大きさ、犯行支配の意志などを総合的に考慮して判断しなければならない(最高裁判所20061222日宣告20061623判決など参照)。

(2) 察するが, 判示各証拠らによって認められる次のような事情すなわち、@被告人Aはポスコを退職した後、200610月頃、当時舞鶴(ムハク)スティール海外営業本部長として勤務していた被告人Bに会って、ポスコを退職し、低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などについての資料を持ち出してきたので、中国の宝山鋼鉄、D社、E社などを相手に接触をして技術移転事業を一緒にしようと提案した点、A被告人Bが上記の提案を受け入れて、被告人Aは宝山鋼鉄を中心に協議を進めて、被告人BはD社とE社を相手に接触を試みることにした点、B被告人Aは20071月?2月頃、被告人Bに中国のD社とE社の電磁鋼板責任者と接触するために連絡先を調べてみるよう指示し、これにより、被告人Bは2007227日頃D社とE社の関係者に電子メールを送り、世界で最高レベルの方向性電磁鋼板の製造技術を持った人が技術情報を提供したいから電磁鋼板分野の最高責任者の名前とメールアドレスを教えてくれという内容のメールを送ったこと、C被告人○○○は2006109日頃に宝山鋼鉄の販売関連幹部Mr.Zhuにメールを送って、ポスコで方向性電磁鋼板の技術開発を担当していたが、韓国に来れば会おうと提案したが、何の連絡も受けなかったが、また宝山鋼鉄との接触を試みていたところ、宝山鋼鉄の従業員リョウヨウ氏から会おうというメールが来て20061127日頃、中国上海に行って宝山鋼鉄の電磁鋼板責任者であるチャンヒジュンに会って交渉を始めたこと、Dそんな中、被告人Aは2007510日頃、宝山鋼鉄と、低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料すべてを提供し、その製造技術についてのコンサルティングをする代わりに3年で550万ドル(約50億ウォン)を受け取る請負契約を締結したこと、E上記請負契約に基づいて被告人Aは2007515日頃と2007530日頃、二度にわたって宝山鋼鉄に低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営情報を含んでいる冊子とコンピュータファイルなどが保存されているノートパソコンを宝山鋼鉄の○○○に渡したこと、F上記のように請負契約が締結された後、被告人Bは20076月初旬頃、被告人Aと正式に雇用契約を締結して、2007614日頃から、被告人Aと一緒に中国の宝山鋼鉄に行って、宝山鋼鉄の関係者に方向性電磁鋼板の製造技術などについてコンサルティング教育をした点などを総合してみると、被告人Bは、被告人Aと共謀して判示第2記載と同じ不正競争防止および営業秘密保護に関する法律違反の犯行をしたと考えるのが相当であるため、被告人Bの部分の主張も、やはり理由がない。

量刑の理由

この事件の犯行は、被告人が自己の被害会社であるポスコから退職しポスコの営業秘密である低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料を持ち出してポスコの営業秘密を取得するとともに、営業秘密資料を取得・使用ないようにするという業務上の任務に違背し、被告人らが共謀して、上記のように取得したデータを中国の宝山鋼鉄に渡すことにより、外国で使用されることを知ってポスコの営業秘密を漏洩したというものである。

察するに、被告人らが取得して、中国の宝山鋼鉄に流出した低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、ポスコが1996年から約11年間に渡り、合計約150人の研究員と約403億円の研究開発費を投入して開発した技術として、既存の高温加熱方式による電磁鋼板の製造技術に比べて工程が容易で、コストを削減し、収益を高めることができ、現在、ポスコと新日鉄だけ保有している技術として、世界的に技術面で独歩的な位置を占めている点、ポスコは方向性電磁鋼板提起鋼板の製造技術を機密に分類して外部への流出を厳格に管理している点、被告人Aはポスコの低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を競合会社である中国の鉄鋼会社に売却して不正な利益を得る目的で、事前に緻密に計画を立てた後、ポスコを退職し、営業秘密である低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術に関する本と976本以上のコンピュータのファイルを無断でコピーして持ち出し、その直後中国の宝山鋼鉄におよそ550万ドル(約50億ウォン)という巨額を受けて上記の技術を売却し、最初から最後まで、この事件の犯行を主導した点、被告人Aが上記の技術の売却対価のうち主に受領した金額だけでも150万ドル(約139,000ウォン)にのぼる巨額で、これをすべて個人的に消費したこと、被告人らが共謀して、低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営情報などが含まれているパンフレットやノートパソコンを宝山鋼鉄に譲ることによってポスコの独自かつ優れた技術が既にほとんど中国の鉄鋼会社に移ってしまったこと、これにより、方向性電磁鋼板の供給増加に伴う価格下落などで、ポスコが今後、巨額の損害を被ることが予想され、我が国の鉄鋼産業とその従事者、国家経済全体への悪影響も実に莫大なことと見られる点、特に、被告人らは、捜査機関から法廷に至るまでポスコの技術の独自性と経済的価値性を貶めながら、自分たちが流出した資料が新日鉄の技術なので、自分たちの行為は正当であると主張するなど、反省する態度を見せずにいる点などを総合すると、被告人らのこの事件の犯行は、その罪質が非常に重いとするので、被告人らに対しては、それに相応する厳重な処罰が避けられない。

  ただし、被告人らは、すべて1回の罰金刑以外は処罰された前歴がないこと、被告人Bはポスコを退職した後舞鶴スチィールで勤務している途中、被告人Aからオファーを受けて一歩遅れてこの事件の一部犯行に加担するようになり、被告人Aに比べて、その加担の程度が軽微な点、また、被告人Bがこの事件の犯行により、実際の取得した利得額も、被告人Aから給与の名目で2回にわたり受領した総1700万ウォンに過ぎないこと、その他被告人の年齢、性向、知能と環境、被害者の関係、犯行の動機、手段と結果、犯行後の情況など量刑の条件となる諸般の事情を考慮して主文のように刑を定める。

無罪部分

1.公訴事実の要旨
 
この部分公訴事実の要旨は、「被告人Aが判示第1の業務上背任行為により、上記方向性電磁鋼板の技術開発研究費4034,800万円相当以上の利益を取得して競合会社の供給増加と競争力の強化により、被害会社に今後5年間で最低1571億ウォン以上の損害を加えた」ということで、検事は、これを特定経済犯罪加重処罰などに関する法律第3条第1項第1号、刑法第365条、第355条第2項に該当する犯罪で起訴した。

2.判断
 
ガ.背任罪は他人の事務を処理する者がその任務に違反する行為として財産上の利益を取得したり、第三者にこれを取得することにして本人に損害を加えた場合に成立する犯罪であり、その利益と損害は、経済的な観点から実質的に判断されるべきものであるところ、営業秘密を取得することで得る利益は、その営業秘密を持つ財産の価値と相当であり、その財産価値は、その営業秘密を持って競合会社など他のメーカーで製品を作る場合には、その営業秘密により技術開発にかかるコストが削減される場合の、その減少幅相当と、さらにその営業秘密を使用して、製品の生産にまで発展させた場合、製品の販売利益のうち、その営業秘密が提供されていない場合の差額相当としてその価値を勘案して、市場経済の原理によって形成される市場交換価格と見るべきである(最高裁判所1999312日宣告984704判決など参照)。

ナ.特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反(背任)の罪を罰するためには、犯罪行為で取得した利得した利得額が50億ウォンを越えなければならないが、まず、被告人Aが犯罪行為で取得した利得額が50億ウォンを超えるかどうかについて検討する。

 ○○○の事実照会結果書で、○○○方向性電磁鋼板の技術開発コストの計算は、POSCO方向性電磁鋼板の製造技術流出による被害額推算書によると、ポスコは1996年頃から2006年頃までの研究費と試験費に約4034,800万ウォン相当を投入して低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を開発し、被告人らの技術流出により方向性電磁鋼板の供給量増加と販売価格の下落によってポスコに今後5年間で最低1571億ウォン以上の損害があると被害予想額を算定している事実を認めることはできるが、上記のように算出された研究開発費ないし被害予想額が特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反(背任)または業務上背任における利得額かどうかについて調べてみると、背任罪についてのその利益と損害は、経済的な観点で実質的に判断されるべきもので営業秘密を取得することで得る利益は市場経済原理によって形成される市場交換価格とすることであるところ、この事件において、被告人らが流出した営業秘密により技術開発にかかるコストが削減される場合の、その減少幅相当と、さらにその営業秘密を使用して製品の生産にまで発展させる場合は、製品毎の利益のうち、その営業秘密が提供されなかった場合の差額相当を勘案した市場交換価格の何らかの証明がないだけでなく、被告人らが流出した上記の資料に対する利用可能性と成否が不確実なことしかないその資料に対する研究開発費をすぐにその市場交換価格で見ることもできず、一方、被告人Aが中国の宝山鋼鉄との間に合計550万ドル(約50億ウォン)を受け取ることにする内容のコンサルティング契約を締結したことは既に見たとおり同じだが、上記コンサルティング契約の内容によると、被告人Aがこの事件資料一切を一体として渡して以来、3年間ほど宝山鋼鉄従業員を対象に、技術コンサルティングをするというものであり、被告人らに対する検察被疑者訊問調書、捜査報告(被告○○○ノートパソコンのデータ分析)の各記載を総合すると、被告人らは、上記コンサルティング契約締結後、すでに数回宝山鋼鉄従業員を対象に、この事件の営業秘密などに関連し、教育をしており、上記の従業員のための資料を提供しており、すぐに回答できなかった質問に対しては、今後の電報が入手され次第、知らせることにした事実を、各認めることができるが、上記の各認定事実によれば、上記のコンサルティング契約に基づく支払い約定金額合計550万ドルがこの事件の各データ自体の市場交換可格と断定しにくく、これを認める証拠がないので、結局、被告人Aが上記の資料を流出することにより得られた利益は、その資料の研究開発費相当ではなく、金額不詳の市場交換価格相当とするしかない。

次に、この事件の資料が流出済みにより被害を受けたポスコが被ることになる損害はそのような資料を利用する競合会社の製品開発と量産期間の短縮による競争力強化とそれにより生じる方向性電磁鋼板の供給増加によるポスコの利益減少分とするのだが、ポスコが方向性電磁鋼板の供給増加と販売価格の下落に伴う今後5年間の被害予想額を上記のように推定しているが、被害予想額の予測が不可能で、これを正確な損害額とすることができないので、その正確な金額に金額の証明がないだけでなく、上記の資料に対する研究開発費をすぐにその利益の減少分と見ることもできない以上、ポスコが被った損害は、供給の増加と競合他社の競争力強化に生じる金額不詳の利益減少分相当とするしかない。

ダ.その後、被告人Aが取得した利得額が50億円以上であることを前提とするこの部分の公訴事実は犯罪事実の証明がない場合に該当し、刑事訴訟法第325条後段には無罪を宣告しなければならないとするが、この一罪の関係にあると判じ業務上背任罪を有罪と認定した以上、主文で別に無罪を宣告しない。


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