大邱(テグ)高裁
第一刑事部
判決
事件番号2008ノ188 ガ.特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反(背任)事件
(認定された罪名業務上背任)
ナ.業務上背任
ダ.不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律違反
被告 1. ガ.ダ.
A(1955年1月24日生)、会社代表者
住居 釜山南欧ヨンホ洞
登録基準地 仁川富平区富平洞
2. ナ.ダ.
B(1958年5月6日生)、会社専務取締役
住居 浦項市南区インドクドン
登録基準地 済州ジョンイプドン
控訴人 被告人らと検事
検事 ○○○
弁護人 △△△(被告人Aのため)
□□□(被告人らのため)
原審判決 大邱地方法院2008.4.8宣告 2007告げ449判決
判決 宣告2008年10月2日
主文
原審判決を破棄する。
被告人Aを懲役3年、被告人Bを懲役1年に、各処する。
原審判決宣告前の拘禁日数182日ずつを被告人の上記の各刑に算入する。
ただし、この判決確定の日から被告人Aに対しては5年間、被告人Bについては2年間、各刑の執行を猶予する。
押収された新成分系の方向性電磁鋼板の製造技術の開発第1巻(押収リストの番号3)、最高級無方向性電磁鋼板の開発(Ⅱ)1巻(押収リストの番号5)、SRA後方向電磁鋼板の開発第1巻(押収リストの番号6)、冷延工程使用中高級無方向性電磁鋼板の開発(Ⅰ)1巻(押収リストの番号7)、冷延工程使用中高級無方向性電磁鋼板の開発(Ⅱ)1巻(押収リストの番号8)、うの中の密度無方向性電磁鋼板の開発(ⅱ)1巻(押収リストの番号9)、最高級無方向性電磁鋼板の開発(Ⅱ)1巻(押収リストの番号5)、SRA後無方向性電磁鋼板の開発第1巻(押収リストの番号6)、冷延工程使用中高級無方向性電磁鋼板の開発(Ⅰ)1巻(押収リストの番号7)、冷延工程使用中高級無方向性電磁鋼板の開発(ⅱ)1巻(押収リストの番号8)、うの中の密度無方向性電磁鋼板の開発(ⅱ)1巻(押収リストの番号9)、Cr-free type無方向性電磁鋼板コーティング剤の開発(Ⅰ)1巻(押収リストの番号10)を被告人Aから、低温加熱方向性電磁鋼板の炭素添加量が2次結晶に及ぼす影響1巻(押収リストの番号37)、設備1巻(押収リストの番号38)、新低温HGO資料1冊(押収リストの番号50)、ノートブックコンピュータ1台(押収リストの番号67)を被告人Bから各没収する。
理由
1.控訴理由の要旨
ガ.被告人ら
(1)事実誤認と法理誤解
被告人らが株式会社ポスコ( 以下「ポスコ」という)で退職する当時外部に持ち出した低温加熱方向性電磁鋼板製造技術などの関連資料 ( 以下「この事件の資料」という)はポスコが新日鉄(NSC)の専任技術者たちから不正に取得したこととして、ポスコが新日鉄とは違う固有性や進歩性ある技術を開発したのではなく新日鉄の技術をそのままコピーして使っているのだが、新日鉄の上記の技術は、現在、特許期間が終了して公知の技術に該当し、ポスコの技術は特許に公開された新日鉄の技術より劣等な技術で、決して独立された経済的価値を認めることができないし、この事件の資料は、ポスコの職員なら誰でも閲覧可能な状態にあり、数年間会社に勤めた者であれば誰でも知っておくことができるもので、相当な努力によって秘密に維持されてきたとはいえず、これを不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律によって保護された営業秘密であるとはいえない。
よって、被告人らはポスコの営業秘密を外部で流出してはいけない業務上の任務に違反してこれを無断で持ち出すことによって利益を取ってポスコに損害を加え、不正な利益を得て、または企業に損害を加える目的で営業秘密を取得したり、外国への漏洩・使用する犯罪を犯したところがないという、原審はこのような被告人の弁論を信じず、ポスコの職員1,2,3などがこの事件の資料の営業秘密としての価値やポスコが被る損害に対して虚偽とか誇張されるように述べた内容とポスコで任意に作成した事実問い合わせ結果などを信じて、この部分公訴事実全部を有罪と認めた過ちがある。
(2)量刑不当
しかし、被告のこの事件の控訴事実をすべて有罪と認められるとしても、原審が被告人に宣告した刑(被告人Aに対して懲役3年、被告人Bに対する懲役1年6月、執行猶予3年と社会奉仕200時間)は、非常に重く不当である。
ナ.検事
(1)事実誤認と法理誤解
(ガ)背任による利得額と被害額について(原審判決の理由無罪部分について)
ポスコは1996年1月頃から低温加熱電磁鋼板の製造技術の開発に着手して、その時から2006年3月頃までに研究者150人、研究開発費403億4,800万ウォンを投入して上記の技術開発を完了したので、被告人Aや中国の鉄鋼会社が上記の技術情報を習得することにより、削減される上記403億ウォンほどを被告人Aが、この事件の背任行為で取得した最小の利得額と見なければならず、たとえそのように見なくても、中国の宝山鋼鉄が事件の資料への購入費用として、被告人らに計550万ドル(約50億ウォン)を支給することにしたので現実的な取引によって交換価値が証明された上記の50億ウォンがこの事件の資料の市場交換価格と考えるべきだろう。そして、特に複雑な計算を行わない場合でも上記の技術の研究開発費が403億ウォンほどで、上記の技術の適用による生産性向上などにより、ポスコが2006年に上記の方向性電磁鋼板だけで売上高3,438億ウォン、純利益1,729億ウォンの実績を上げた事情などに照らして、この事件の資料の価値が50億ウォンを超えるということは常識レベルでもこれを認めることができるとする。
また、上記のような技術流出でポスコが受けた被害額は、上記の宝山鋼鉄に本格的に製品を量産するように思われる2009年頃から、今後5年間だけの被害額の計算期間にとって売上高には何の変化もないことを前提として、ただ、中国競合他社の供給増加による価格下落だけを変数に取って計算しても、その売上損失額が今後5年間で1兆571億ウォンに迫る。それでも原審は、上記の資料の研究開発費相当や宝山鋼鉄とのコンサルティング契約に基づく支払の約定金額合計550万ドル(約50億ウォン)が、この事件の資料そのものの市場交換価格であると断定するのは難しいと判断し、被告人Aが上記の技術情報を流出することにより得られた利益は、金額不詳の市場交換価格相当であると認識し、この事件の資料が流出したことにより、ポスコが被る損害も、被害予想額を正確に予測することが不可能だと見て、ポスコが被った損害は、供給の増加と、競合他社の競争力強化に起こる場合があり、不明の利益減少分相当と判断し、被告人Aの公訴事実のうち、特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反(背任)の部分について理由無罪を宣告した誤りがある。
(ナ)没収(被告人Bについて)
この事件の資料が保存されている被告人Bのノートパソコン(押収リストの番号67)を没収して、営業秘密資料が被告人に返されることを防止しなければならないにも関わらず、原審は、これに欠けている誤りがある。
(2)量刑不当
被告人の原審の刑が非常に軽く不当である。
2. 職権判断
検事は原審で2008年3月20日(公判記録4238)と2008年3月21日(公判記録4274)公訴状変更許可申請をして公訴状の公訴事実の一部を撤回したところ、当審でも2008年7月29日に控訴状変更許可申請をして次のように変更された公訴事実の一部を撤回した。ここに当審がこれを許可して審判対象が変更されたので原審判決はそのまま維持されることができない.
ガ.原審判決の犯罪事実1のガ(被告人Aの営業秘密不正取得や、業務上背任)
被告人Aから押収した押収リスト(証拠記録398?399、以下同じ)の番号1?14、30?36の文書のうち、営業秘密であると主張する13件(控訴状は、15件)の資料を7件(別紙犯罪一覧表1番号1?7、押収リストの番号3,5,6,7,8,9,10)に減らした。
ナ.原審判決の犯罪事実1のナ、2のガ(被告人Aの営業秘密不正取得や業務上の背任、被告の営業秘密国外漏洩)
被告人Bから押収した押収リストの番号67ノートブックコンピュータに保存されたファイルの中の営業秘密であると主張している243個(控訴状は、804個)のファイルを54個(別紙犯罪一覧表2)とした。
ダ.原審判決の犯罪事実2のガ、ナ(被告人らの営業秘密国外漏洩)
営業秘密と主張している「p's SL-Process Research
report 1st(低温加熱方向性電磁鋼板プロセス研究報告書)など4冊のパンフレット」を削除して、「P's Purchasing Specifications#1DCNL(方向性電磁鋼板の製造設備購入仕様書)など6冊の冊子」を"「P's Purchasing Specifications#1DCNL(方向性電磁鋼板の製造設備購入仕様書)など5冊の冊子」とした。
ト.原審判決の犯罪事実3のガ.(被告人Bの営業秘密不正取得や業務上背任)
被告人Bから押収したリストの番号15?29、37?65の文書とCDの営業秘密であると主張する31件(控訴状は40件)の資料を3件(別紙犯罪一覧表1の番号8?10、押収リストの番号37、38、50)に減らした。
マ.原審判決の犯罪事実3のナ.(被告人Bの営業秘密不正取得や業務上背任)
被告人Bから押収した上記のノートブックコンピュータに保存されたファイルの中の営業秘密であると主張している5つ(控訴状は、9つ)のファイルを2つ(別紙犯罪一覧表3)とした。
バ.原審判決の犯罪事実3のダ.(被告人Bの営業秘密の国外への使用)
被告人Bから押収した上記のノートブックコンピュータに保存されたファイルの中の営業秘密であると主張している2つ(控訴状は、25個)のファイルを1つ(犯罪事実3のダ.)とした。
3.結論
したがって、原審判決には、上記のような職権破棄事由があるので、刑事訴訟法第364条第2項により、職権で原審判決を破棄し、論争を経て、再び次のとおり判決する。
犯罪事実
被告人Aは被害会社である株式会社ポスコの技術開発室電磁鋼板推進組班長として勤めていたが、2006年8月31 日頃退職して、現在技術コンサルティング会社である ESTC社の社長として在職する者で、被告人Bは、ポスコの技術研究所電磁鋼板研究グループ研究員として勤務していたが、2005年9月9日に退職して、現在、上記のESTC社の常務取締役として勤務している者だが、誰でも不正な利益を得るか、または企業に損害を加える目的でその企業に有用な営業秘密を不正に取得したり、外国で使用したり、外国で使用されることを知っている第三者に漏洩してはならないし、また被告人たちはポスコの方向性電磁鋼板製造技術関連資料はすべて営業秘密として取り扱いされ無断複製、コピー、持ち出しが禁止されていることをよくわかっていて、このような内容を熟知して営業秘密を保護するというセキュリティ誓約書まで作成したので、ポスコの営業秘密資料を外部に無断持ち出ししてはならない業務上の任務があるにもかかわらずその任務に違反した。
1. 被告人Aは
2006年8月頃、浦項市南区ピジョン洞 1 所在ポスコ電磁鋼板推進組オフィスで、ポスコでは1996年1月頃から2006年3月頃までには研究者150人、研究開発費403億4,800万ウォン相当を投入して開発した営業秘密である低温加熱方向性電磁鋼板、高級無方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営関連資料一切を保管していることを機に、これを抜き取り、退職した後、将来の技術コンサルティングなどの名目で、中国の鉄鋼メーカーにこの営業秘密を漏洩して不正な利益を取得することを決心して、
ガ. 2006年8.月初旬頃日付不詳、上記の電磁鋼板推進組事務室で、ポスコの営業秘密である新成分係の方向性電磁鋼板製造技術開発という方向性電磁鋼板製造基準に関する研究報告書を無断で持ち出したことを含めて、その時から 2006年8月頃日付不詳まで別紙犯罪一覧表1 番号 1 ないし 7 記載とともに合計7件の技術資料(パンフレット)を無断で持ち出し、
ナ.2006年8月下旬頃日付不詳、同じ場所で、ポスコの業務用ノートパソコンなどに保存されている営業秘密である「0407製鉄技術賞審議発表資料(最終)ppt」という名前のコンピュータのファイルを、所持していた専用USBメモリに無断でコピーして移して持ち出したのをはじめ、別紙犯罪一覧表2記載のコンピューターファイル54個が含まれている電磁鋼板の製造技術などに関する様々なファイル数量不詳をコピーして持ち出し、ポスコの営業秘密を不正に取得するとともに、上記の営業秘密の金額不詳の市場交換価格相当の財産上の利益を取得し、ポスコに供給増加と競合他社の競争力強化が起こる場合があり、不詳の利益減少分相当の損害を加えて、
2.被告人らは共謀して、
2006年10月頃、浦項市南区サンデドンの韓食レストランでは、被告人Aが上記のように持ち出した方向性電磁鋼板の製造技術等に関する資料を、中国の鉄鋼会社に移転するとともに、操業のノウハウなどについてのコンサルティングをして、その代価として巨額の不正な利益を得ることで合意し、その時から、被告人たちが一緒に上記の情報を買収する中国の鉄鋼メーカーを探していた中、ついに2007年5月10日、被告人Aが上記のように流出した方向性電磁鋼板の製造技術などの資料一切を、中国上海の宝山鋼鉄に与え、以後3年間ほど宝山鋼鉄の従業員を対象に技術コンサルティングをする対価として3回にわたり計550万ドル(約50億ウォン)を受けることにした内容のコンサルティング契約を上記の宝山鋼鉄スタッフのチャンヒジュンと締結した後、
ガ.2007年5月15日頃、中国上海の宝山鋼鉄事務所では、被告人Aが上記第1のナ.項記載のように流出した資料のうち、別紙犯罪一覧表2記載のコンピュータのファイル54個を含む方向性電磁鋼板などの製造に必要な技術、設備、経営情報を網羅した営業秘密であるコンピュータドキュメントファイルと設備写真ファイル数量不詳が保存されたノートパソコンをチャンヒジュンに渡し、
ナ.同月30日頃、前項と同じ場所では、被告人Aがポスコの営業秘密の電磁鋼板の製造設備購入仕様書(P's Purchasing
Specifications)#1DCNL(脱炭窒化熱処理)、ZRM(20段冷間圧延機)、#2COF(高温アニール熱処理設備)、#2HCL(平坦化コーティング熱処理設備)、#3ACL(連続コーティング及び熱処理設備)など5冊の冊子を同じ方法でチャンヒジュンに渡して、
外国で使用されることを知って、ポスコの営業秘密を漏洩し、
3. 被告人 Bは、
ガ.2005年9.月上旬日時不詳頃、ポスコ技術研究所内電磁鋼板の研究グループのオフィスで、退職して不正な利益を得、ポスコへの損害を目的に、ポスコの営業秘密である
「低温加熱方向性電磁鋼板で炭素添加量が2次再結晶に及ぶ影響」という資料を無断で持ち出したことを含めてその時から 2005年9.月上旬頃まで別紙犯罪一覧表1番号8 ないし10 記載のような営業秘密の方向性電磁鋼板製造関連技術資料 3件(資料綴)を無断で持ち出して
ナ. 2005年9月上旬日付不詳、電磁鋼板の研究グループのオフィスを退職して、不正な利益を得るか、またはポスコに損害を加える目的で、自分のノート型パソコンに業務上保管していたポスコの営業秘密である方向性電磁鋼板設備情報に関するファイル"新低温AP1999P320.pdf"という名前のファイルを削除したり、会社に返却せず、そのまま保存されたまま持ち出したのをはじめ、別紙犯罪一覧表3記載のように、ポスコの営業秘密のファイル2つを持ち出し、
ポスコの営業秘密を不正に取得するとともに、上記の営業秘密の金額不詳の市場交換価格相当の財産上の利益を取得し、ポスコに供給増加と競合他社の競争力強化に起こる金額不詳の利益減少分相当の損害を加え、
ダ.2007年6.20日、釜山南区大淵洞のオフィスでポスコの営業秘密である方向性電磁鋼板の製造技術に関する別紙犯罪一覧表2の番号44のファイルなどをもとに、 「電磁鋼板Sol.Al分析法.ppt」という資料を編集した後、その頃に、中国上海にある宝山鋼鉄の講義資料として使用することで、ポスコの営業秘密を外国で使用される。
証拠の要旨
この裁判所が犯罪事実について説示する証拠の要旨は、原審判決の証拠の要旨に「当審証人右○○の証言は、右○○作成の陳述書(検事が提出した第107号証、以下「検第○号証」というように短縮される)、流出文書の営業秘密性の検討(検第108号証)、宝山鋼鉄へ渡された技術情報の営業秘密の根拠(検第109号証)、新成分系の方向性電磁鋼板の製造技術開発(押収リストの番号3)、最高級無方向性電磁鋼板の開発(Ⅱ)(押収リストの番号5)、SRA後ジョチョルソン無方向性電磁鋼板の開発(押収リストの番号6)、冷延工程使用中高級無方向性電磁鋼板の開発(ⅰ)(押収リストの番号7)、冷延工程使用中高級無方向性電磁鋼板の開発(ⅱ)(押収リスト番号8)、う束密度無方向性電磁鋼板の開発(Ⅱ)(押収リストの番号9)、Cr-free type無方向性電磁鋼板コーティング剤の開発(Ⅰ)(押収リストの番号10)、低温加熱性方向性電磁鋼板では、炭素添加量が2次再結晶に及ぼす影響(押収リストの番号37)、電工設備(押収リストの番号38)、新低温HGO資料(入手リストの番号50)の各記載及びCD(押収リストの番号67ノートパソコンでコピーしたもの)に収録された文字情報」を追加して、「押収された総リスト記載の各押収物(証、第1?69号証)」を削除する以外は、原審判決の該当欄に記載されているのと同じなので、刑事訴訟法第360条により、これをそのまま引用する。
法令の適用
1. 犯罪事実に対する該当法条
ガ. 被告人Aの判示第1のガ、ナ、被告人Bの判示第3のガ、ナ、各営業秘密の取得の点:各包括して旧不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(2007.12.21法律第8767号で改正される前のもの、以下同じ)、第18条第2項
ナ.被告人Aの判示第1のガ、ナ、被告人Bの判示第3のガ、ナ、各業務上背任の点:各包括して刑法第356条、第355条第2項
ダ.被告人らの判示第2のガ、ナ、各営業秘密国外漏洩の点:各包括して旧不正競争防止および営業秘密保護に関する法律第18条第1に、刑法第30条
ラ.被告人Bの判示第3のダ、営業秘密国外への使用の点:旧不正競争防止および営業秘密保護に関する法律第18条第1項
1. 観念的競合
各刑法第40条、第50条(各営業秘密の取得による不正競争防止および営業秘密保護に関する法律違反罪と業務上背任罪相互、各刑がより重い業務上背任罪に定める刑で処罰)
1. 刑の選択
各懲役刑を選択する
1.併合罪加重
各刑法第37条前段、第38条第1項第2号、第50条(各刑がより重い業務上背任罪に定める刑に併合罪加重)
1. 未決拘禁日数の算入
各刑法第57条
1. 執行猶予
各刑法第62条第1項
1. 没収
刑法第48条第1項第2号(押収リストの番号3,5,6,7,8,9,10,37,38,50)
刑法第48条第1項第1号(押収リストの番号67)
有罪の理由
1公訴事実が特定されているかどうか
公訴を提起するにあたり、公訴事実を特定して記載するように要求する刑事訴訟法第254条第4項の趣旨は、裁判所に対して審判の対象を限定することで、審判の効率と迅速を図るとともに、防衛の範囲を特定して、被告人の防御権行使を容易にしてくれるためにあるので、不正な利益を得る目的で営業秘密を取得・漏洩・使用しているかどうかが問題になる不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(以下「法」という。)違反事件の公訴事実に営業秘密と主張された情報が詳細に記載されていない場合でも、他の情報と区別することができ、それと一緒に指摘された他の事項にはどのような内容に関するものであることがわかり、また、被告人の防御権行使にも支障がない場合は、その公訴提起の効力には影響がない(最高裁判所2008.7月10日宣告2006度8278判決)。
察するが、この事件の公訴事実の営業秘密であると主張される情報は、被告人がポスコに勤務しながら取得した
「低温加熱方向性電磁鋼板、高級無方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営関連資料」として、別紙犯罪一覧表1に対する証拠物である書面(押収リストの順番3,5,6,7,8,9,10,37,38,50研究報告書(冊子)、資料綴及び別紙犯罪一覧表2,3 及び犯罪事実 3のダ.項に対する証拠物である CD(押収リスト番号 67 ノートブックコンピュータからコピーして保存したもので証拠の一種)に収録されたことと、 犯罪事実 2のナ.項の "P's Purchasing Specifications #1DCNL など 5冊のパンフレット(電磁鋼板製造設備の購入仕様書))である。
そして、別紙犯罪一覧表1,2,3に資料名、主な内容、分野、営業秘密、その理由の要旨が記載されており、別紙犯罪一覧表1,2,3、および上記のCDに収録された情報の要旨及び技術的価値については、右○○作成の流出資料の営業秘密性の検討(検第108号証)に、上記の5冊の冊子に収録された情報の要旨及び技術的価値については、右○○作成の宝山鋼鉄へ渡された技術情報の営業秘密の根拠(検第109号証)にそれぞれ記載されている。
察するが, 公訴事実に営業秘密の具体的な内容を記載するように要求する場合ポスコの営業秘密が秘密性を喪失する恐れがあるので、この事件の資料の内容は、別紙犯罪一覧表1,2,3にその要旨が記載されていて上記の5冊の冊子の内容は、初めから公訴事実に記載されていなくても、原審及び当審証人の右○○の陳述, 右○○作成の流出技術資料に対する営業秘密性の検討(検第108号)、右○○作成の宝山鋼鉄へ渡された技術資料に対する営業秘密の根拠(検第109号)の各記載に照らして見ればいくらでも他の情報と区別することができるし、またどのような内容に関する情報かもよく分かるので、
被告人たちの防御権行使に支障があるとは見えない。
さらに、この事件の資料の中で上記5冊の冊子を除いた残りの情報はすべて被告人が所持していたもので、被告人から押収した調査報告書、資料綴と被告人Bから押収したノートパソコンに収録されている点(被告人Bから押収したノートパソコンに収録された情報のうち、別紙犯罪一覧表2記載のファイル54個、被告人AがUSBメモリマスターにコピーしてポスコから持ち出し、自分のコンピュータにコピーされたものを被告人Bが再度コピーして保管していたもの)、上記5冊の冊子は被告人
Bから押収したノートパソコンに保存されているリストとして被告人Aがこれを中国宝山鋼鉄職員チャンヒジュンに渡したと認めている点(証拠記録 308,320) などに照らして見ればもっとそうだと言える。
2.被告人が証拠物を謄写できず、防御権が侵害されているかどうか
検事は、被告人らと弁護人に証拠物である上記の研究報告書、資料綴とCDの閲覧を可能にしながらも(特に上記のCDは、画面出力と出力された文書の閲覧を可能にした)、営業秘密の侵害の恐れがあるという理由でその謄写を許さず、当審は法廷で上の証拠物を適法に調査した後(調査報告書、資料綴は、これを提示して閲覧する方法として、CDは法廷に設置されたコンピュータ及びビームプロジェクターを通じて出力して閲覧する方法で各調査し、検事は文字情報が記憶された上の CDの証拠調査のために読めるように出力して認証した謄本を法院に提出すれば被告人たちが謄写する恐れがあるという理由でこれを提出しなかった)、これを押収せず検事に返還した。
察するが、刑事訴訟法第35条第1 項は「被告人と弁護人は訴訟係属中の関係書類や証拠物を閲覧し謄写することができる」と規定し、この事件のように営業秘密の侵害行為が懸念されている証拠の謄写を制限する規定は設けていないので、裁判所が保管する証拠については、上記の刑事訴訟法の規定により謄写を可能にするしかない。
しかし、営業秘密に該当する証拠の謄写を制限なしに許可した場合、第2、第3の営業秘密の侵害行為につながる可能性があるので、検事が営業秘密に該当する証拠を被告人から押収した後、それに対する閲覧のみを許可して謄写を許さないことや、また当審が、証拠を法廷で適法に調査した後、被告人らと弁護人が裁判所に謄写を請求することができないように、これを押収せず、検事に返したことは、営業秘密侵害行為の再発防止のために止むを得ないことと見て、これらが被告人らに不当に侵害されたと見ることができない。
3.この事件の資料が営業秘密に該当するかどうか
ガ.認定事実
原審と当審が適法に採用して調査した証拠によれば、次のような事実が認められる。
(1) 被告人Aは 1981年12月14日にポスコに入社して電磁鋼板部門で電磁鋼板生産、販売、
顧客の不満サポート、品質指標など電磁鋼板部の管理業務全般を担当し、2006年頃からは技術開発室電磁鋼板推進組班長で勤めていたが、 2006年9月1 に希望退職し、2007年7月4日頃 ESTC社という商号で事業者登録をした後、コンサルティング業をしている者で、被告人Bは 1986年1月6日にポスコに入社してポスコ技術研究所鋼材研究室内電磁鋼板研究グループで電磁鋼板技術関連研究業務を担当している途中、2005年9月9日に希望退職した者で、その後電磁鋼板、ステンレス、冷延鋼板スレッター製品などを生産する舞鶴(ムヒク)スティール株式会社に入社して常務理事で在職している途中 2007年5月頃に辞職して 2007年6月10 日頃から上記の ESTC社で専務理事として在職している者である。
(2)電磁鋼板は、電気エネルギーを伝達したり、電気エネルギーを機械的エネルギーに変えてくれるのに使用される鋼製で、圧延方向に沿って方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板に大きく分けられ、方向性電磁鋼板は、超高圧変圧器、柱上変圧器、大型発電機などの変圧器の内部鉄心の素材として使用され、無方向性電磁鋼板は、回転機器のモーター(汎用モーター、家電製品である冷蔵庫、エアコンなどのコンプレッションモーター、ハイブリッド自動車用モーター)などの素材として使用される。
(3)最近の省エネ、エネルギーの効率的使用という側面、中国、インドなど新興開発国の電力需要の急増に伴う発電所増設のため、発電所で生産した電気をエンドユーザーに伝達する過程で、電気の損失を低減する方向性電磁鋼板の需要が急増しており、これにより、方向性電磁鋼板の価格も急上昇している状態である。
ポスコは、1990年代までは、高温加熱方式(CGO法、製造工程中の熱間圧延段階でスラブ表面部を1400℃以上を超えて加熱する方法で、製造コストが余分に消費され、電磁鋼板の主要な特性である高い磁束密度を得ることができないなどの問題がある)に基づいて方向性電磁鋼板を製造してきて、1996年頃から低温加熱方式(HGO法、製造工程中熱間圧延段階で1200℃以下でスラブを加熱する方法)による方向性電磁鋼板の製造技術の研究・開発に着手し、2000年に一般の方向性電磁鋼板の製造技術を開発し、製造に適用し、2002年には高度な方向性電磁鋼板の製造技術を開発して、その時から、低温加熱法のみを使用して、方向性電磁鋼板を生産しており、生産量を増やすために、2004年に主設備を増強し、2006年には17万トンの設備増強を最終的に完了して、その時から、生産の比率を大幅に増やし始めた。
(4)一方、低温加熱法を最初に商用化したのは新日鉄だが、ポスコと新日鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、製造工程中脱炭窒化工程のみが異なるが、新日鉄の低温加熱法は、脱炭(脱炭)を先にして窒化(窒化)をする方法(脱炭後浸窒、別名NAD法)で、それによって設備も脱炭台と窒化台が別にあるが、 これに反してポスコの低温加熱法は脱炭と窒化を同時にする方法(同時脱炭窒化、一別名 SDN法)で, 別途の窒化台なしにより簡単な設備で低温法を具現することができるという差があり、ポスコは、上記のSDN法について、国内および外国で特許出願したが、日本国内には、SDN法のような同時脱炭化のコンセプトの概念特許(実際の生産には適用されていない)が新日鉄から一件出願されており、新日鉄との紛争を引き起こさないために特許を出願せず、生産した製品を日本に輸出していない。
(5)ポスコは、低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を開発する時に新日鉄の退役技術者や、日本の技術コンサルティング会社と請負契約を締結し、これらから新日鉄の各種資料と情報の提供を受けた。
(6)ポスコは、会社の内部情報について、セキュリティ評価を機密(S級) - 社外秘A級) - 社外秘B(B級) - 一般的(C級)の4段階に分類して管理している、そのうちの機密は、同社の主要な経営戦略、技術戦略、生産戦略などの情報であり、担当者と直属の上司の役員までアクセスされ、社外秘Aは意思決定がされていない進行データ、人事データ、投資事業、研究・開発の成果、研究戦略等に関する情報であり、関連部署関係者の間でのみ共有する必要があるデータであり、社外秘Bは告知事項など、全職員が共有できる情報として対外的には秘密にしておくことが適切な情報であり、一般的等級情報については、対外的に公表することができる情報であり、一方、電磁鋼板の製造技術の方向性電磁鋼板の製造技術については、特に最高度のセキュリティ級機密(S級)に分類して極秘に管理しており、高級無方向性電磁鋼板の場合も社外秘Aで管理している。
ポスコは、全職員を対象に定期的にセキュリティ教育をして、セキュリティ誓約書の徴収を受けて「業務に関連して取得した技術情報を外部に流出したり、業務外で使用しない」という趣旨の誓約を受けており、被告人Aは1999年1月1日、2006年1月11日頃などに数回セキュリティ誓約書を提出し、被告人Bもやはり2004年2月5日頃、セキュリティ誓約書を提出したが、上記の各セキュリティ誓約書(証拠記録54,1585)には「退職時には本人が管理していたすべてのデータ(個人保有データを含む)を、退職までに返却する」と記載されており、また、被告人Aは、退職直前の2006年8月29日、「会社勤めで取得した営業秘密を保有したり保存せず、営業秘密関連資料はすべて返却することはもちろん、主要な営業秘密である電磁鋼板の製造技術をいかなる方法においても第三者に漏洩したり、それを用いた起業や競合他社への就職をしない」という趣旨の営業秘密保護誓約書(証拠記録91)も提出した。
また、ポスコは別紙犯罪一覧表1の番号1?7などの研究資料についてパンフレットの表紙に「研究のセキュリティ等級」が設定されていることを表記し、カバーの内側に「本研究の結果報告書は、浦項総合製鉄株式会社代表取締役社長の承認なしに社外に流出することができません。その内容をコピーしたり、外部に公開漏洩することができません」と明示してパンフレットの番号と部数、配布先を明示して、外部に流出することを厳しく規制している。
(7)宝山鋼鉄は中国最大の鉄鋼会社で、世界500大企業の一つであり、上記の会社で生産する特殊鋼は、高温合金の研究と生産の面で中国内の主要な地位を占めており、方向性電磁鋼板の誕生を準備している。
(8)電磁鋼板製造設備の購入仕様書について(犯罪事実2のナ.項)
上記のそれぞれの購入仕様書は、ポスコが電磁鋼板の設備投資に必要な数回の試験と操業経験を基に具現した最適の操業know-howを具現することができる設備の基本要件と設備別の要件、図面を収録したデータである。
ナ.この事件の資料が営業秘密に該当するかどうか。
(1)非公知性
営業秘密とは、公然と知られておらず、独立した経済的価値を持つものとして、相当の努力によって秘密に保たれ、生産方法・販売方法その他の営業活動に有用な技術上または経営上の情報をいう(法第2条第2号)。ここでの「公然と知られていない」とは、その情報が刊行物等の媒体に取り上げられ、不特定多数の者に知られていないため、所有者を通さずには、その情報を通常入手できない場合で充分なものであって、営業秘密と認められるために、被告人らの主張のような特別な固有性や進歩性を要することはない。
したがって察するに、ポスコが低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を開発する時に新日鉄の退役技術者や、日本の技術コンサルティング会社と請負契約を締結して、新日鉄の各種資料と情報の提供を受けたように目に見える事情、ポスコと新日鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、低温加熱法では、基本原理や成分系など類似点が多く、製造工程中脱炭窒化工程のみ差がある点などの問題がいくつか伺え、上記の各証拠、特に右○○作成の流出文書の営業秘密性の検討(検第108号証)、宝山鋼鉄に渡された技術情報の営業秘密の根拠(検第109号証)の各記載によれば、ポスコが多くの技術者と研究者たちを動員して、長年の試行錯誤を経て、研究と実験を重ね、新日鉄のいくつかの技術を応用したり、上記の技術に加えて、新日鉄とは別の独自の低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造技術を開発し、これにより、新日鉄のNAD法とは、他のプロセスの独自のSDN法による低温加熱の方向性電磁鋼板の製造技術の製造基準や操業ノウハウを持つようになった事実、製造元や製造基準の一部が特許などで公開されている場合でもこれは非常に広範で抽象的な範囲内でのみ公開されること(ポスコの特許には、成分条件が比較的具体的に提示されているが、新日鉄の基本特許と改良特許には、成分条件についてMn、C、Bなどの基準が提示されておらず、プロセス条件の中でもポスコの特許は、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍塗布剤について基準を提示しておらず、新日鉄の特許も熱間圧延、予備焼鈍温度、冷間圧延、脱炭焼鈍温度と分位機、高温アニール時の昇温との亀裂等について基準が示されておらず、特に重要な窒化反応について、ポスコの特許では、同時脱炭、窒化物として記載されているが、新日鉄の特許には、脱炭終了後、2次再結晶前に焼鈍分離剤、窒化物を添加したり、窒化分位機での焼鈍分制コーティングしたり脱炭プロセスの後半に窒化するという趣旨のみ記載されている(弁第11号証)のであり、この事件の資料は、ポスコの様々な実験や繰り返し操業結果をもとに作成した操業ノウハウ、設備などに関するもので、特許で公開されていない資料であり、この事件の資料は、ポスコの機密等に分類されて、限られた業務担当者を除く他の従業員のアクセスを制限している点を認めることができる。
さらに言えば、被告人が流出したこの事件の資料は、新日鉄やポスコの特許出願で公開された成分の条件やプロセス条件に加えて、ポスコは、電磁鋼板設備投資の際に必要な数回の試験と操業経験を基に実装した最適の操業know-howを実装することができる設備の基本要件と設備別要件、図面を収録したデータ、または(犯罪事実ナ.項電磁鋼板製造設備の購入仕様書(P's Purchasing Specifications)#1DCNL(脱炭窒化熱処理)、ZRM(20段冷間圧延機)、#2COF(高温アニール熱処理設備)、#2HCL(平坦化コーティングの熱処理設備)、#3ACL(連続コーティング及び熱処理設備)など5冊の本、低温加熱性方向性電磁鋼板の製造技術を開発するために、いくつかの成分系を検討してAl以外の他の元素を利用する可能性を確認するためにAlのような役割を果たすことが期待されるCe、Zr、Bのレビューした報告書(別紙犯罪一覧表1の番号1新成分系の方向性電磁鋼板の製造技術開発)、または最高級方向性電磁鋼板の製造技術であるレーザー処理による磁区微細化技術をポスコが開発して生産に適用した内容(別紙犯罪一覧表2の番号10407製鉄技術上の審議発表資料。ppt)としても、ポスコが高いレベルの方向性電磁鋼板を生産するために理論の探求と実験によって得られた成果物や、生産ラインで繰り返された操業で大きなコストと試行錯誤を経ながら習得した操業ノウハウ、長年の操業活動を介して設備を交換したり、改良して得られた成果物または長い間、電磁鋼板の生産と販売に従事しながら得たノウハウで、生産方法に関する技術上の情報を含んでいるので、この事件の資料は、業界で公然と知られている公開、公知の事実とはいえない。
ただし、被告人らが提出した資料(弁第1?10号証)によれば、ポスコがこの事件の資料の一部を正当でない方法で取得し、保有しているような事情がいくつかの覗き見えるとはいえ、このような事情だけでは被告人の罪責を除く理由はない。もしポスコが保有する営業秘密のうち、違法な方法で取得したものがあるなら、これはあくまでも、ポスコと上記の営業秘密を元の保有していた会社との間で解決すべき問題であって、ポスコの社員だった被告人としては、まだ、ポスコの営業秘密を侵害しない義務を負っており、したがって、被告人がその営業秘密を侵害する場合には、それとは別に、その行為に伴う罪責を負うのが当然だと判断される。
(2)経済的有用性
営業秘密の保有者がその情報の使用を介して競争相手に対して競争上の利益を得ることができるとき、またはその情報の取得や開発のためにかなりの費用や労力を必要とする問題の情報は、経済性を持つとする。したがって間接的に有用な情報, すなわち相手競争会社の商品開発計画または販売計画などのように自分の営業活動に直接利用される性質の情報ではないが、相手との競争関係にあり、便利に活用できる情報、すなわち、他の人に知らせないのが本人に利益のある情報は、経済性があるとする。
したがって、察するに、被告人が退職し、ポスコから取り出したこの事件の資料は、低温加熱方向性電磁鋼板と高級無方向性電磁鋼板の製造技術や設備に関する情報として、これらの資料は、上で示したように、新日鉄の特許で公開した一般的な製造原理や製造基準とは異なり、すべてポスコが高いレベルの方向性電磁鋼板を生産するために大きなコストと試行錯誤を経て得た操業ノウハウ、長年の操業活動を通じて設備を交換したり、改良して得られた成果物または長い歳月の間、電磁鋼板の生産と販売に従事しながら得たノウハウで、独立した経済的価値を持っており、そのほかに被告人たちが流出した事件の資料の中には、現場と技術開発過程での失敗事例まで含まれているがこのような失敗事例もライバルの立場では、試行錯誤を減らすのに寄与し、研究費や研究費や投資額を削減することができるようにしてくれるので、経済的に価値があるとする。
(3)秘密保持性
法が保護する営業秘密になるためには、事業者がどのような情報を秘密に考えていることでは十分ではなく、客観的にその情報が秘密に維持・管理されており、また、第三者がその秘密性を客観的に認識することができなければならない。秘密保持性を認めるためには、まずその情報が秘密であることを特定・表示しなければならないし、その特定された秘密の内部や外部者のアクセスが制限されなければならず、アクセスが許可された従業員や外部の第三者に対して不当な使用や開示を禁止する義務が課さなければならないなど、当該情報が秘密だという点が合理的に判断されるように管理されなければならない。
したがって、察するに、上記認定したように、ポスコはこの事件の資料について最高のセキュリティレベルの機密に分類して極秘に管理し、外部への流出を禁止したり、少なくとも社外秘Aに分類し、従業員に保安誓約書と退職時の営業秘密保護の誓約書を提出されるなど、かなりの程度の秘密保持のための努力をしていた事実も認められる。
(4)結び
したがって、被告人らが流出した事件の資料はすべて非公知性、経済的有用性、秘密保持性など法律で定められた営業秘密としての成立要件をすべて満たしているとする。
4.被告人が共謀して営業秘密を国外漏洩したかどうか
ガ.被告人らの主張の要旨
被告人らは2007年5月15日と同月30日にポスコの営業秘密資料であるコンピュータのファイル、方向性電磁鋼板製造設備の購入仕様書等を宝山鋼鉄に渡したところがなく、また、被告人Bは、被告人Aが宝山鋼鉄と技術移転の請負契約を締結し、低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料を宝山鋼鉄に渡した事実については、自分がESTC社に入社する前に行われたものであり、全く分からなかったし、上記の会社に入社した後に初めて判明したので、被告人Aと、上記犯行を共謀した事実はない主張する。
ナ.判断
2人以上が共謀して犯罪に共同加工する共犯関係における共謀は法律上何らかの定形を必要とするのではなく、犯罪を共同実行の意思がある共犯者相互間に直接・間接的にその共同の実行に関する暗黙的な意思連絡があれば十分であり、これに対する直接の証拠がなくても状況の事実と経験則によってこれを認めることができ、共謀による犯罪の共同実行は、すべての共犯者が自らの犯罪の構成要件を実現することを前提にせず、その実現の行為をする共犯者にその行為の決定を強化するように協力することでも可能であり、これに該当するかどうかは、行為の結果に対する各自の理解度、行為への加担の大きさ、犯行支配の意思などを総合的に考慮して判断しなければならない(最高裁判所2006年12月22日宣告2006も1623判決など参照)。
察するに、判示各証拠によって認められる次のような事情、すなわち、①被告人Aは、ポスコを退職した後、2006年10月頃、当時舞鶴(ムカク)スティール海外営業本部長として勤務していた被告人Bに会って、ポスコを退職し、低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などについての資料を持ち出したので、中国の宝山鋼鉄、無限鋼鉄などを相手に接触をして技術移転事業を一緒にしてみよう提案した点、②被告人Bが上記の提案を受け入れて、被告人Aは宝山鋼鉄を中心に協議を進めて、被告人Bは無限鋼鉄と鞍山鋼鉄を相手に接触を試みることにした点、③被告Aは、2007年1月?2月頃、被告人Bに、中国鞍山鋼鉄と無限鋼鉄の電磁鋼板責任者と接触するために連絡先を調べてみるよう指示し、これに伴い、被告人Bは2007年2月27日頃、鞍山鋼鉄と無限鋼鉄と無限鋼鉄関係者に電子メールを送り、世界で最高レベルの方向性電磁鋼板の製造技術を持った人が技術情報を提供したいから電磁鋼板分野の最高責任者の名前とメールアドレスを教えてくれという内容のメールを送ったこと、④被告人Aは、2006年10月9日頃、宝山鋼鉄の販売関連幹部Mr.Zhuに電子メールを送信し、ポスコで方向性電磁鋼板の技術開発を担当していたので、韓国に来れば会おうと提案したが、何の連絡も受けなかったが、また宝山鋼鉄と接触を試みていた中、宝山鋼鉄の従業員から会おうというメールが来て2006年11月27日頃、中国上海に行き宝山鋼鉄の電磁鋼板責任者であるチャンヒジュンに会って交渉を始めたこと、⑤そんな中、被告人Aは2007年5月10日頃宝山鋼鉄と、低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料すべてを提供し、その製造技術についてのコンサルティングをする代わりに3年間550万ドル(約50億ウォン)を受けるという請負契約を締結したこと、⑥上記請負契約に基づいて被告人Aは2007年5月15日頃と2007年5月30日頃、二度にわたって宝山鋼鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術、設備情報を含んでいる冊子とコンピュータファイルなどが保存されているノートパソコンを宝山鋼鉄のチャンヒジュンに渡したこと、⑦上記のように請負契約が締結された後、被告人Bは2007.年6月初旬頃、被告人Aと正式に雇用契約を締結し、2007年6月14日頃から、被告人Aと一緒に、中国宝山鋼鉄に行って宝山鋼鉄関係者に方向性電磁鋼板の製造板製造技術等についてのコンサルティング、教育をした点などを総合してみると、被告人らは共謀して判示第2記載となる営業秘密国外漏洩の犯行をしたと認められる。
ダ.被告人Aのノートパソコンの主張
被告人Aの弁護人は、検事が2008年9月11日に裁判所に提出した追送書の記載によれば、被告人Aがチャンヒジュンにノートパソコンを渡して、その中にあったすべてのファイルを渡したという公訴事実が事実と相違すると分かったので、この部分の公訴事実については無罪を宣告しなければならないと主張する。
察するに検事が2008年9月11日の追送書で、被告人Aの中国のホテルに保管されていたノートPCコンピュータを被告人Bが回収していったという趣旨のポスコチャイナ総経理の作成の文書を提出した事実、検事がこの部分公訴状で「被告人Aが営業秘密であるコンピュータのドキュメントファイルや設備写真ファイル数量不詳が保存されているノートパソコンをチャンヒジュンに渡して、外国で使用されることを知って、ポスコの営業秘密を漏洩した」という内容で公訴を提起した事実は認められる。
しかし、被告人Aが捜査中、いずれの方法で宝山鋼鉄にポスコの営業秘密である技術情報を渡したかを確認する検事の質問に「私はノートパソコンコンピュータを新たに購入して、ポスコ電磁鋼板推進室で2ギガのUSBにコピーした資料をまた、上記のノートパソコンにコピーをして、中国の宝山鋼鉄担当者にノートパソコンを丸ごと渡した(証拠の記録308)」と明確に述べており、当審法廷でも上記のような趣旨の検事の質問に「主に1段階でデータを移したのは新日鉄の設備と技術だが、ノートパソコンのデータがたとえ移っていても宝山鋼鉄のオフィスの金庫にあるので、相手が必要な場合は、いつでも開封して見ることができると思う。したがって、その部分については、そのように陳述させていただきます」と供述したという事実が認められ、被告人Bが当審で「中国に行って、被告人Aのノートパソコンを回収してきた事実はない」と主張している点などに照らして、被告人Aが中国で使用したノートブックコンピュータが2つだということもありえるので、上記追送書に添付されたポスコ作成の文書の記載だけでこの部分の公訴事実が事実と違うとは言えない。
ダ.被告人らが授受したお金が単なるコンサルティングの対価であるかどうか
被告人らが宝山鋼鉄から受けることにした550万ドルは、この事件の資料を提供した対価ではなく、方向性電磁鋼板市場の研究報告、方向性電磁鋼板メーカーの一般的な情報、メーカー名、生産能力、国際規格、今後の需要見通し等についてのコンサルティングをする対価という趣旨で主張するが、被告人らが宝山鋼鉄従業員を対象に教育をした当時の電磁鋼板の製造に関連するポスコの設備情報、操業ノウハウなどを主なテーマに教育した事実(被告人が宝山鋼鉄従業員らを相手に講義して質問した内容を記載した主な質問内容、証拠記録424)、そのほか被告人が宝山鋼鉄に渡した冊子やファイルのリストが記載された議事録(Minute
of meeting、証拠記録320)の各記載に現れた問題、上記の金額が約50億ウォンという巨額な点などに照らしてみると、上記お金を単なるコンサルティングの対価としては考えにくい。
5.業務上背任かどうか
ガ.業務上背任罪は他人の事務を処理する者がその任務に違反する行為として財産上の利益を取得したり、第三者にこれを取得させることにして本人に損害を加えることで成立するが、ここでの
「その任務に違背する行為」とは、事務の内容、性質など具体的な状況に照らして、法律の規定は、契約の内容や信義則上当然に期待される行動をしていないか、当然すべきでないと期待される行為をすることで、本人との間の信頼関係を裏切る一切の行為を言う(最高裁判所1999.3.12。宣告98度4704判決)。したがって、会社の従業員が営業秘密を競合他社に流出したり、自分の利益のために利用する目的で無断で持ち出した場合、その搬出のときに業務上背任罪の既遂となり(最高裁2003.10.30。宣告2003も4382判決)、営業秘密でなくても、そのデータが不特定多数の人に公開されておらず、かなりの時間、努力および費用をかけて制作した営業上の重要な資産である場合にも、その資料の搬出行為は業務背任罪を構成し、(最高裁2005年7月14日宣告2004も7962判決参照)、会社の従業員が営業秘密や営業上の重要な資産であるデータを適法に搬出して、その搬出行為が業務上背任罪に該当しない場合でも、退職時にその営業秘密などを会社に返したり、廃棄する義務があるにもかかわらず、競合他社に流出したり、自分の利益のために利用する目的で、これを返品または廃棄しなければ、これらの行為が業務上背任罪に該当すると見なければならない。
一方、業務上背任罪が成立するには、主観的要件としての任務違背の認識とそれにより自己または第三者の利益を取得して本人に損害を加えるという認識、つまり背任の故意が必要だが、このような認識は、未必的認識でも十分なところ、被告人が背任罪の犯意を否認している場合には、物事の性質上背任罪の主観的要素となる事実は、故意とかなり関連性がある間接事実を証明する方法によって証明するしかなく、この時、何がかなりの関連性がある間接事実に該当するかは、通常の経験則に基づいて緻密な観察力や分析力によって事実の接続状態を合理的に判断しなければならない(最高裁判所2004.3.26。宣告2003も7878判決など参照)。
ナ.察するに、被告人がこの事件の資料をポスコ外部に搬出したことは認めながらも、その業務上背任の故意を否認しているので、業務上背任の故意とかなり関連性がある間接事実を総合して被告人に業務上背任の故意があったのかを判断しなければならないが、被告人らはポスコ入社時または在職中、ポスコ内の保護区である電磁鋼板工場に出入り許可を受けながら「本人は、国家安全保障の目標施設「が」級の浦項製鉄所の保護区の重要性を深く認識し、この地域内で職務上、所管業務以外の一切の任意の行動を禁止し、退職後もこの地域で知得した諸事項を一切公開しないことを誓約する」という内容の誓約書(被告人A、証拠記録254)または「在職中の職務と関連して、本人が開発した情報資産に対する知的財産権は特に明記されない限り会社に帰属し、これを他社または他の組織に使用しない。
本人は退職後2年間、本人が参加した営業秘密を使用するための目的で、同業種の競合他社に就職またはその他の協力関係(パートナーシップ、コンサルタント、コンサルティングなど)を持たない。退職時には、本人が管理していた会社の秘密に関するすべての資料(個人保有データを含む)を退職するまで返却する」という内容の保安誓約書(被告、証拠記録54,382,1585)を各作成し、被告人Aが退職直前の2006年8月29日作成・提出した営業秘密保護の誓約書(証拠記録91)に「退職や業務の変更時にすべてのデータを会社に返します」と記載されており、退職時に事件の資料をポスコに返却するか廃棄する義務があることがはっきりしており、被告人Bの場合、退職直前に上記のような内容の誓約書を作成・提出していなかったが、雇用契約に基づく付随的義務ないし信義則上の義務として退職時に彼が管理していた営業秘密を、ポスコに返却するか廃棄する義務があると見える点、一方、ポスコは従業員にセキュリティ教育を定期的に実施し、業務用のデータの社外搬出を禁止し、ちょうど在宅勤務など、業務上必要がある場合に限って業務用データの持ち出しを容認していたが、この事件の資料の搬出経緯に関する被告人らの各状況に照らして、被告人らは、業務上の必要性によって、この事件の資料を持ち出したと見られない点、被告人Aは、この事件の資料を持ち出しにあたってポスコの承諾を受けていないにも関わらずポスコ退職時に「本人はどのような場所にどのような方法でも(株)ポスコの営業秘密を保有するか、保存していないことを確認します。本人が管理していた(株)ポスコの秘密に関するすべての資料(個人保有データを含む)は、情報資産返却確認の際に基づき退職までに誠実に返納したことを証明します」という内容の営業秘密の保護誓約書(証拠記録91)が添付された希望退職申請書をポスコに提出して、この事件の資料の搬出事実を告知しなかっただけでなく、この事件の資料を破棄せずに退職後も継続保管していた点、被告人らは宝山鋼鉄とコンサルティング契約を締結し、この事件の電子文書が保存されているノートブックコンピュータを宝山鋼鉄に提供した点など諸般の事情を総合してみると、被告人らがこの事件の資料をポスコ外部に搬出した当時、被告人らには、今後ポスコ以外で無関係に、この事件の資料を使う意思があったと考えることが相当で、少なくとも未必的でも背任の故意があったと見るべきである。
したがって、この事件の資料がポスコの営業秘密または営業上の大切な資産であれば、被告人らのこの事件の資料の各搬出行為は業務上背任罪を構成すると見なければならない。
6.営業秘密の取得の点
被告人らは、ポスコを退職した当時、不正な取得をしたり、ポスコに損害を加える目的で、この事件の資料を搬出したものではない旨を主張する。法第2条第3号は、「営業秘密の侵害行為とは、次の各号の1に該当する行為をいう。」と言いながら下記前段で「切抜・欺瞞・脅迫その他の不正な手段で営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)」を規定しており、ここでいう
「不正な手段」とは、切抜・欺瞞・脅迫など刑法上の犯罪を構成する行為だけでなく、秘密保持義務の違反、またはその違反の誘引など、健全な取引秩序の維持ないし公正な競争の理念に照らして上列挙された行為に準ずる善良な風俗その他社会秩序に反する一切の行為や手段をいう。
また、法第18条第2項は、不正な利益を得るか、または企業に損害を加える目的で、その企業に有用な営業秘密を取得・使用したり、第三者に漏洩した者を処罰している。
したがって、察するに、上記各証拠によれば、被告人Aは2006年8月頃電磁鋼板推進室オフィスで、被告人Aが業務用に使用していたノートパソコンのポスコの営業秘密、技術資料のうち、必要なファイルを削除して方向性電磁鋼板の製造技術中低温製法の技術情報を中心に、被告人Aがあらかじめ用意した2ギガのUSBメモリスティックにコピーして持ち出し、その後再びノートパソコンを新しく購入して、上記USBメモリスティックにコピーしたデータを再び上記のノートパソコンにコピーをして、中国の宝山鋼鉄の担当者にノートパソコンを渡したこと、退職する直前の2006年8月頃からオフィスのパンフレットも一、二冊ずつ取り出して家に持っていく方式で搬出した点、被告人Bは休職の後に退職したため、会社から誓約書などの徴収や、被告人が外部に搬出する荷物の管理が疎かな隙を利用して7?8箱程度の分量の各種書類などを搬出した点、被告人らが秘密保持義務があるにもかかわらずこれに違反し、この事件の資料を持ち出した点などに照らしてみると、被告人らが不正な利益を得るか、またはポスコに損害を加える目的で、この事件の資料をポスコから持ち出し、これを不正取得したものと言わざるを得ない。
量刑の理由
この事件の犯行は、被告人がそれぞれ、被害会社であるポスコを退職し、ポスコの営業秘密である低温加熱の方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料を持ち出して、ポスコの営業秘密を不正に取得するとともに、営業秘密資料を企業の外部に無断持ち出ししてはならないという業務上の任務に違反し、被告人らが共謀して、上記のように得られた資料を、中国宝山鋼鉄へ外国で使用されることを知ってポスコの営業秘密を漏洩し、被告人Bは、これを外国で使用したという。
察するが、被告人たちが
取得して中国宝山鋼鉄に流出した低温加熱方向性電磁鋼板製造技術はポスコが1996 年から約11 年間にわたって総150 余名の研究者と約403億ウォンほどの研究・開発コストを投入して開発した 技術として、従来の高温加熱方式による電磁鋼板の製造技術に比べて生産工程が容易で、コストを削減し、収益を高めることができ、現在の新日鉄とポスコだけが保有する技術として、全世界的に技術面で独歩的な位置を占めている点、被告人Aはポスコの低温加熱方向性電磁鋼板製造技術をライバル社である中国の鉄鋼会社に売却して不正な利益を取得する目的で、事前に緻密に計画を立てた後ポスコを退職し、営業秘密である低温加熱方向性電磁鋼板製造技術関連のパンフレットと 976個以上のコンピューターファイルを無断でコピーし持ち出し、すぐに、宝山鋼鉄へ550万ドル(約50億ウォン)という巨額をもって上記の技術を売却し、最初から最後まで、この事件の犯行を主導した点、被告人Aが上記の技術の売却対価のうち一次で受け取った金額だけでも150万ドル(約13億9,000万ウォン)にわたる巨額なもので、これをすべて個人的に消費した点、経営情報などが掲載されているパンフレットやノートパソコンを宝山鋼鉄に渡し、ポスコの独自的で優れた技術のすでに大部分が中国の鉄鋼会社に移ってしまった点、これにより、方向性電磁鋼板の供給増加による価格下落などで、ポスコが今後大きな損失を被ることが予想され、我が国の鉄鋼産業とその従事者ひいては国の経済全体に与える悪影響も大きいと思われる点、特に被告人らは捜査機関から裁判所に至るまで、ボスコ技術の独自性と経済的価値性を貶めて、自分たちが流した情報は新日鉄の技術なので、自分たちの行為は正当であると主張するなど、反省する態度を見せていない点などを総合すると、被告人らのこの事件の犯行は、その罪質が非常に重いということなので、被告人らに対しては、それに相応する厳重な処罰が避けられない。
もっとも、被告人らがこの事件の営業秘密の技術開発に貢献した功労が大きく、この事件の営業秘密が新日鉄の技術に類似の点が少なくない事情などに照らして、この事件の営業秘密の流出にポスコが致命的な打撃を受けたとは認められていない点、被告人らはいずれも1回の罰金刑以外には、処罰された前歴がない点、被告人Bはポスコを退職した後、舞鶴(ムカク)スティールで勤めていたが、被告人Aからオファーを受けて一歩遅れてこの事件の一部犯行に加わるようになったし、被告Aに比べて、その加担程度が軽微な点、また、被告人Bが、この事件の犯行により、実際に取得した利得額も、被告人Aから給与の名目で2回にわたって受け取った1,700万ウォンに過ぎない点、その他被告人の年齢、性行、知能や環境、被害者の関係、犯行の動機、手段と結果、犯行後の情況など量刑の条件となる諸事情を考慮して、主文どおり定める。
無罪部分
この部分公訴事実の要旨は、「被告人Aが判示第1の業務上背任行為により上記の方向性電磁鋼板の技術開発研究費403億4,800万ウォン相当以上の利益を取得し、競合他社の供給増加と競争力強化のため、ポスコに今後5年間で最低1兆571億ウォン以上の損害を加えた」ということで、検事は、これを特定経済犯罪加重処罰などに関する法律第3条第1項第1号、刑法第356条、第355条第2項に該当する犯罪で起訴した。
特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反(背任)の罪で処罰するためには犯罪行為で得た利益額が50億ウォンを越えなければなない。まず、被告人Aが犯罪行為で取得した利益額が50億ウォンを超えるかどうかについて説明する。
ポスコの事実照会結果のパーサーは、ポスコの方向性電磁鋼板の技術開発コストの計算は、POSCOの方向性電磁鋼板の製造技術流出による被害額推計書によれば、ポスコは 1996年頃から 2006年頃まで研究費と試験費用で約 403億 4,800万ウォン相当を投入して低温加熱方向性電磁鋼板製造技術を開発し、被告人の技術流出により、方向性電磁鋼板の供給量の増加と販売価格の下落に応じて、ポスコの今後5年間で最低1兆571億ウォン以上の損害があることで被害予想額を算定している事実を認めることはできる。
しかし、上記のように算出された技術開発費が、特定経済犯罪加重処罰などに関する法律違反(背任)や業務上の背任における利益と損害額であるかどうかについてみると、背任罪は、他人の事務を処理する者がその任務に違反する行為により財産上の利益を取得したり、第三者をして、これを取得することにして本人に損害を加えた場合に成立する犯罪であり、その利益と損失は、経済的な観点から実質的に判断しなければならないところ、この事件で問題とされた資料に対して上記のような技術開発コストが投入されたといっても、そういう資料を取得した者の利益はその資料が持つ財産価値相当だと言うはずで、そんなにした財産価値はその資料を持って競争社など他の業社で製品を作る場合その資料によって技術開発に所用される費用が減少される場合のその減少分相当とひいてはその資料を利用して製品にまで発展させる場合、製品販売利益の中でその資料が提供されない場合の差額相当としてそういう価値等を勘案して市場経済原理によって形成される市場交換した価格相当がその資料の財産価値となるはずだが、このような市場の交換の価格の証明がないだけでなく、その資料の活用の可能性と成敗可否がはっきりしないしない資料を流出することで得た利益は、その資料の技術開発費相当ではなく、金額不詳の市場交換価格相当といわなければならず、また、この事件で問題になった資料が流出したことにより、ポスコが被る損害は、そのような資料を利用している競合他社の製品開発と量産期間の短縮による競争力強化とそれにより生じる方向性電磁鋼板の供給過剰によるポスコの利益減少分が、その損害とその正確な金額の証明がないだけでなく、資料の技術開発費をすぐにその利益の減少分と見ることもない以上、ポスコが被った損害は、その資料の技術開発費相当ではなく、競合他社の競争力強化に生じる方向性電磁鋼板の供給過剰による金額不詳の利益減少分がとせざるを得ないことである(最高裁判所1999.3.12宣告98度4704判決)。
これにより、被告人Aが取得した利益額が50億ウォン以上であることを前提としているこの部分公訴事実は、犯罪事実の証明がない場合には、刑事訴訟法第325条後段には無罪を宣告しなければならないとするが、この一罪に関係にあると判じ業務上の背任罪を有罪と認定した以上、主文で別に無罪を宣告していない。
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