大邱(テグ)地方裁判所浦項支部
第1民事部
判決
事件 2007カ1956損害賠償(期)
原告 株式会社ポスコ
浦項市南区OO洞_
代表取締役 ◇○
訴訟代理人弁護士ユンサンホン
被告 1 A(xxxxxx-xxxxxxx)
釜山南区OO洞___-__?????????__同____号
2 B (xxxxxx-xxxxxxx)
浦項市南区OO洞___-__ OO??___同___号
被告ら訴訟代理人弁護士イサンソン
弁論終結2008年7月 18日
判決宣告2008年 8月 29日
主文
1.被告らは各自原告に、
ガ.別紙リスト1、2、3記載の各技術、設備、および経営資料を他人に売買等で譲渡したり、そのデータを利用した技術コンサルティング行為をしてはならないし、上記の各資料と上記の各資料が入ったUSBメモリやノートパソコンなどのコンピュータに保存された情報をすべて破棄または削除して、
ナ.2億円、これに対して2007年5月10日から2008年 8月29日までは年5%、その翌日からも返済日までは年率20%の各割合で計算した金員を支払え。
2.訴訟費用は被告らの負担とする。
3.第1のナ.項は仮に執行することができる。
請求の趣旨
主文と同じ(ただし「2007年5月30日」は「2007年5月10日」と思われる)。
理由
1.基礎事実
次の各事実は当事者間に争いが存在しない。甲第3号証の3ないし7、10、15?17、21?24、甲第4号証の11、15、18、25、を第1号証の3、7 、82ないし86、89,116、117、126の各記載、甲第3号証の8、甲第4号証の4、6、10、17、19、26、27の各一部記載を論争全体の趣旨を総合すると、これを認めることができる。
ガ.当事者の地位
原告会社は、製銑、製鋼、圧延材の生産と販売などを目的に設立された会社であり、被告Aは、原告会社の技術開発室電磁鋼板推進組班長として勤務するが、2006年8月31日頃退職し、現在の技術コンサルティング会社ESTC社社長を務めている者であり、被告Bは、原告会社の技術研究所電磁鋼板グループ研究員として勤務してから2005年9月9日退職し、現在ESTC社の常務取締役として勤務する者である。
ナ.原告会社の技術開発と営業秘密の管理など
(1)原告会社は、会社の内部情報についての4段階に分類して管理して機密は会社の主要な経営戦略、技術戦略、生産戦略などの情報であり、担当者と直属の上司役員までのアクセスが可能であり社外秘Aは意思決定がされていない進行データ、人事データ、投資事業、研究開発成果、研究戦略等に関する情報であり、関連部署関係者の間でのみ共有する必要があるデータであり、社外秘Bは告知事項など、全職員が一緒に共有できる情報として、対外的には秘密にしておくことが適切な情報であり、一般情報は、対外的に公表が可能な情報として、原告会社は、電磁鋼板の製造技術の方向性電磁鋼板製造技術については、特に最高度のセキュリティ用の級である機密(S級)に分類して極秘に管理しており、高級無方向性電磁鋼板の場合社外秘Aで管理している。
(2)原告会社は、全職員を対象にセキュリティ誓約書の徴収を受けて、業務に関連して知得した技術情報を外部に流出したり業務外で使用しないという誓約を受けているが、被告Aは2006年1月11日頃セキュリティ誓約書を提出し、被告Bも2004年2月5日頃セキュリティ誓約書を提出し、また、被告Aは、退職直前の2006年8月29日頃会社勤務時に知得した営業秘密を保有したり保存せず、営業秘密関連資料はすべて返却することはもちろん、主要営業秘密である電磁鋼板の製造技術をいかなる方法においても第三者に漏洩したり、利用した創業や競合他社への就職をしない旨の営業秘密保護誓約書も提出した。
(3)原告会社は、1990年代までは高温加熱方式により方向性電磁鋼板を製造してきて、1996年頃から低温加熱方式による方向性電磁鋼板の製造技術の研究開発に着手し、2000年に一般の方向性電磁鋼板製造技術を開発し、製造に適用し、2002年には高度な方向性電磁鋼板の製造技術を開発して、その時から低温加熱法のみを使用して方向性電磁鋼板を生産しており、生産量を増やすために、2004年に主に設備を増強し、2006年には17万トンの設備増強を最終的に完了して、その時から、生産の比率を大幅に増やし始めた。
(4)原告会社と新日鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、製造工程中脱窒化工程で差があるが、新日鉄の低温加熱法は、脱炭を先にして窒化をする方法(NAD法)であり、それに応じて、設備も脱炭台と窒化台とが別であり、これに反して原告会社の低温加熱法は、脱炭と窒化を同時にする方法(SDN法)で、別に窒化台を設置することなく、よりシンプルな設備で低温法を実装することができ、原告会社は、上記のSDN法の国内および外国に特許出願をしたが、日本国内にSDN法のような同時脱炭窒化コンセプト概念の特許(生産には適用されない)が新日鉄によってなされたのは出願されており、新日鉄との紛争を惹起させないために特許を出願しなかった。
ダ.被告らの業務上のデータの取得および漏洩など
(1)被告Aは2006年 8月頃原告会社から、1996年1月頃から2006月3月頃までに研究者150人、研究開発費403億4,800万ウォン相当を投入して開発した営業秘密である低温加熱方向性電磁鋼板製造技術、高級無方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営関連資料一切を保管していることを機に、これを取り出して退職した後、将来の技術コンサルティングなどの名目で、中国の鉄鋼メーカーにこれを漏洩して利益を得るために、2006年8月上旬の日付不詳、原告会社の電磁鋼板推進組オフィスで、原告会社の「新成分系の方向性電磁鋼板の製造技術開発」という製造基準に関する研究報告書を持ち出したことをはじめ、その時から2006年8月日付不詳頃まで、別紙リスト1の番号1?13の各記載のように全13件の技術資料を持ち出し、2006年8月下旬日付不詳、同じ場所で、原告会社の業務用ノートパソコンなどに保管されていた「Base Coating FT-IR(発表).ppt」と呼ばれるコンピュータのファイルを所持していた専用USBメモリにコピーして移してきたのをはじめ、別紙リスト2記載のコンピュータのファイル243個を含む方向性電磁鋼板などの製造技術、設備の写真、経営情報に関する様々なファイル数不詳をコピーして持ち出した。
(2)被告らは2006年10月頃浦項市南区に位置するレストランで、被告Aが上記のように持ち出した方向性電磁鋼板の製造技術等に関する資料を、中国の鉄鋼会社に移転するとともに、操業のノウハウなどについてのコンサルティングをし、その対価として巨額の利益を取得することで合意し、その時から、被告らは一緒に上記の情報を買収する中国の鉄鋼メーカーを探していたが、2007年5月10日、被告Aが上記のように流出した方向性電磁鋼板の製造技術などの資料一切を、中国上海の宝山鋼鉄に渡し、3年間ほど宝山鋼鉄の従業員を相手に技術コンサルティングをする対価として3回にわたり計550万ドル(約50億ウォン)を受けるとする内容のコンサルティング契約を上記の宝山鋼鉄の従業員であるチャンヒジュンと締結した。
(3)これにより、被告Aは2007年5月15日頃、中国上海にある宝山鋼鉄のオフィスで、原告会社の資料である4冊の冊子と上記のように流出した資料のうち、別紙一覧2記載のコンピュータのファイル243個を含む方向性電磁鋼板などの製造技術、設備の写真、経営情報に関する各種のファイル数不詳が保存されたノートパソコンを上記チャンヒジュンに渡し、2007年5月 30日に同じ場所で、原告会社6冊の冊子を同じ方法で上記のチャンヒジュンに引き渡した。
(4)被告Bは2005年9月上旬の日付不詳、原告会社の技術研究所内電磁鋼板研究グループのオフィスで、原告会社の「新低温HGO資料」という書類を持ち出したことをはじめ、その時から2005年9月上旬頃までに、別紙リスト1の番号14ないし44記載のように、原告会社の資料である方向性電磁鋼板の製造関連技術情報31件を持ち出した。
(5)被告Bは2005年 9月上旬の日付不詳、電磁鋼板研究グループのオフィスを退職し、自分のノート型パソコンに業務上保管していた原告会社の営業秘密である方向性電磁鋼板設備情報に関するファイル「Coater 設備制御方法(事例).doc」を、ファイルを削除したり、会社に返却せず、そのまま保存したまま持ち出したことをはじめ、別紙リスト3の番号1?5記載のように原告会社のファイル・データ5個を持ちだし、2007年6月20日、ESTCオフィスで、原告会社の営業秘密である方向性電磁鋼板の製造技術に関する「方向性AL分析法」という資料を上記の宝山鋼鉄の教育資料を作成するために編集した後、中国上海の宝山鋼鉄に立って講義資料として使用することを含めて、同じ方法で、別紙リスト3の番号6、7記載のように上記の資料を使用した。
ダ.被告らの刑事裁判手続等について
上記の記載の各事実等について、刑事訴追され、被告Aは第1審で2008年4月8日、不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律違反罪などで懲役3年、被告Bは懲役1年6月、執行猶予3年の各判決を受けた後、検事及び被告は、上記の判決の各項目の所で、現在控訴審が続いている。
2.営業秘密の侵害差止請求に関する判断
ガ.この事件の資料が営業秘密かどうか
(1)営業秘密とは一般的に、公然と知られておらず、独立した経済的価値を持つものとして、相当の努力によって秘密に保持されている管理された生産方法、販売方法その他営業活動に有用な技術上または経営上の情報をいうが、営業秘密の保有者である会社が従業員に秘密保持の義務を課すなど、技術情報を厳重に管理している以上、リバースエンジニアリングが可能であり、彼が技術情報の獲得が可能であるかそのような事情だけで、その技術情報を営業秘密として表示するために支障があると見ることができず、また、情報が「独立した経済的価値を持つ」という意味は、その情報の保有者がその情報の使用を介しての競争相手に対して競争上の利益を得ることができるか、またはその情報の取得や開発のためにかなりのコストや労力が必要であるかということだったところ、どのような情報でも上記のような要件をすべて取り揃えたら上記の情報はすぐに営業活動に使用することができるほどの完成された段階に至ってなくとも、実際の第三者に何ら手助けになっていないか、誰もが試作品さえあれば実験を通じて調べることができる情報であっても、上記の情報を営業秘密として表示するために障害となるのではない(大法院2008年215宣告2005度6223判決、200610年27日宣告2004度6876判決、1999年312宣告98度4704判決など参照)。
(2)前述の事実関係で示された次のような事情、すなわち、①原告会社は、この事件の資料に対して最高のセキュリティ用の級機密に分類して極秘に管理したり、少なくとも社外秘Aに分類し、従業員を対象にセキュリティ誓約書と退職時の営業秘密の保護誓約書を提出されるなど、かなりの程度の秘密保持のための努力をしていた点、②非公知性は、その情報が刊行物等の媒体に取り上げられ、不特定多数の者に知られていないため、所有者を通じずにはその情報を通常手に入れることができないのであれば満足なものであり、営業秘密として認められるために被告の主張のような特別な一意性や進歩性を要することは必要なく、この事件の資料は、原告会社から機密などに分類されて、限られた業務担当者を除いた他の従業員のアクセスを制限しており、非公知性の要件も満たされている点、③被告が退職し、原告会社から引き抜いたこの事件の資料は、
????????????????????と呼ばれるもので公開していなく、その秘密と管理が容易ではない設備及び経営に関する情報であり、これらの材料は、新日鉄で特許で公開した一般的な製造コストや製造基準とは異なり、すべて原告会社が高レベルの方向性電磁鋼板を生産するために理論の探求と実験によって得られた成果物であるか、生産ラインで繰り返された操業を介して多くの費用と試行錯誤を経ながら習得した操業ノウハウで、長年の操業活動を通じて設備を交換したり、改良して得られた成果物または長い間、電磁鋼板の生産と販売に従事しながら得たノウハウで、独立した経済的価値を持っており、他に被告が流出させたこの事件の資料の中には、現場と技術開発過程での失敗事例も含まれているが、このような失敗事例も競合他社にとっては試行錯誤を減らすのに寄与し、研究費や投資額を削減することができるサイクルのためにも経済的に価値があるとする点などを総合すると、被告が流出したこの事件の資料は、すべての秘密管理性、非公知性、経済的有用性など、不正競争防止法で定められた営業秘密としての成立要件をすべて満たしていたと言える。
ナ.被告らの主張に対する判断
(1)被告は、まず、原告会社が新日鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を不法に取得し、現在に至るまで何の研究開発の努力もせず、これをそのまま使用していると主張しているが、これを認めるに値する証拠がなく、ただ第1号証の14,15,16、18、19、20、26、27の各記載によれば、原告会社が低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を開発する時に新日鉄の退職技術者や、日本の技術コンサルティング会社と請負契約を締結し、これらから新日鉄の各種資料と情報を提供されたとみられる事情をいくつか伺い知ることができるが、原告会社が多数の技術者と研究者たちを動員して、長年の試行錯誤を経て、研究と実験を繰り返した末、新日鉄のいくつかの技術を応用したり、上記の技術に加えて、新日鉄とは別の独自の低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造技術を開発し、これで新日鉄のNAD法とは異なる工程を持つ独自のSDN法による低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術の製造基準や操業ノウハウを持つようになったので、原告会社の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、原告会社の営業秘密であると考えるべきだろう。
(2)次に、被告はこの事件の資料が新日鉄の技術であり、すでに特許が終了した情報の技術とも主張するが、製造コストや製造基準の一部が特許などで公開されている場合でもそれは非常に広範で抽象的な範囲内でのみ公開されているものであり、この事件の資料は、すべて原告会社は各種の実験や繰り返し操業結果をもとに作成した操業ノウハウ、設備、経営情報などに関するもので、特許で公開されていないデータである。したがって、被告らの上記各主張はいずれも理由がない。
ダ.結び
上記のように被告は、原告会社から退社した当時、この事件の資料に関連営業秘密保持契約を締結したにもかかわらず、上記の資料を勝手に持ち出し、原告会社の営業秘密を取得するとともに、上記の営業秘密の金額不詳の市場交換価格相当の財産上の利益を得て、原告会社に供給増加と競合他社の競争力強化に起こる場合がある不明の利益減少分相当の損害を加えたし、これを利用して2007年5月10日頃、中国の宝山鋼鉄との間に、事件の資料を提供したり、これを使った講義などをするコンサルティング契約を締結し、これを使ったのは不正競争防止法第2条第3号ア、エ規定の原告会社の営業秘密の侵害行為に該当する。
したがって、被告らの営業秘密の侵害により、原告会社の営業上の利益が侵害されたり侵害されるおそれがあるので、被告は営業秘密侵害行為の禁止と予防措置として、主文第1のカ項のようにこの事件の資料を他人に売買等に譲渡したり、そのデータを利用した技術コンサルティング行為をしてはならないし、上記の各資料と上記の各資料が入ったUSBメモリやノートパソコンなどのコンピュータに保存された情報をすべて破棄または削除する義務がある。
3.損害賠償請求に関する判断
ガ.損害賠償責任の発生
被告は、上記のような営業秘密の侵害行為に対し、故意があったとするものであり、被告らの営業秘密の侵害行為により原告会社の営業上の利益が侵害され、損害が発生したと相当するので、旧不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(2007年12月21法律第8767号改正される前のもの、以下「不正競争防止法」という。)第11条により被告は、原告会社にその損害を賠償する義務がある。
ナ.損害賠償の範囲
(1)不正競争防止法第14条の2第2項は、不正競争行為又は営業秘密の侵害行為により営業上の利益を侵害された者が第5条又は第11条の規定による損害賠償を請求する場合は、営業上の利益を侵害した者がその侵害行為によって利益を受けたことがあったときは、その利益の額を営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定すると規定している。
(2)前述の事実関係に示すように、被告らが、中国の宝山鋼鉄との間に合計550万ドルを受けることにした内容のコンサルティング契約を締結した事実は、上記のコンサルティング契約の内容によると、被告がAがこの事件の資料一切を渡してから3年間ほど宝山鋼鉄の従業員を対象に技術コンサルティングをすること、被告は、上記のコンサルティング契約を締結した後、すでに何度も宝山鋼鉄従業員を対象に、この事件の営業秘密などに関連する教育をし、上記の従業員のための資料を用意しており、すぐに答えられなかった質問に対しては、今後の情報が入手され次第回答すると教えていたことなどを、各認めることができているところ、これを総合すると、被告はこの事件の資料を取得して使用した営業秘密の侵害行為に基づいて受ける利益は、上記のコンサルティング契約に基づく支払の約定金額合計550万ドルのうち、現実的に受領した150万ドルで、原告会社が被告らの正当な技術コンサルティング費用として自認している契約金額の5%である7万5,000ドル(=150万ドル×5/100)を差し引いた142万5,000ドルとするものであり、これは原告会社が受けた損害の額と推定される。
(3)その後、被告らは各自原告に142万5,000ドルをウォンに換算した14億44,665,000ウォン(この事件の弁論終結日である2008年7月18日当時の米ドルに対するウォンの基準為替レートは1013.80ウォンの原因事実は、この裁判所に顕著である)の原告が一部として入手した2億ウォンと、これに対し、原告が求めるところにより、2007年5月10日からこの事件の判決宣告日までに、民法が定める年5%、その翌日からも返済日までは訴訟促進等に関する特例法が定める年20%の各割合で計算した金員を支払う義務がある。
4.結論
よって、原告会社の被告に対する、この事件の請求は理由あるので、これをすべて引用することにして主文のとおり判決する。
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