主文
1 第一審判決を次のように変更する。
ガ.被告らは各自原告に
(1)別紙第1 リスト番号「1,3 ないし 8,20,21,32」記載、別紙第2リストの番号「2、19ないし29、31、33、35、36、39、41、45、49、58、60、77、81、90、98、106、109、124ないし126、131ないし134、136、138、149、150、153、155、161、162、168、174、175、186、190、204、207、212、224、225、242」記載、別紙第3リストの番号「3、4、7」記載の各技術、設備と管理情報を他人に売買等で譲渡したり、その資料を利用した技術諮問行為をしてはならないし、上記の各資料と上記の各資料が入ったUSBメモリやノートパソコンなどのコンピュータに保存された情報をすべて破棄または削除して、
(2) 200,000,000ウォン及びこれに対して 2007年5月10日から 2008年8月29日までは年5%、その翌日から完済日までは年 20%の各割合で計算した金員を支払え。
な.原告の被告に対する、残りの請求をいずれも棄却する。
2.訴訟総費用は、原告が20%、被告が80%をそれぞれ負担する。
3.第1項の金員支払部分は仮執行することができる。
請求の趣旨及び控訴の趣旨
1.請求の趣旨
主文「第1のガ.(2)項」のような判決(原告は当審で損害賠償請求の部分の遅延損害金起算日を「2007.5.30」から「2007.5.10」に訂正した)及び、被告はそれぞれ原告に別紙第1?3のリスト記載の各技術、設備と管理情報を他人に売買などで譲渡したり、資料を利用した技術諮問行為をしてはならないし、上記の各資料と上記の各資料が入ったUSBメモリやノートパソコンなどのコンピュータに保存された情報をすべて破棄または削除せよ(原告の当審での営業秘密の侵害差止請求についての予備的追加部分は、当初求めている侵害差止請求の対象の技術情報を減らしたにすぎないので、独立した予備請求に扱わない)。
2.控訴の趣旨
第一審判決を破棄し、原告の被告に対する請求をいずれも棄却する。
理由
1.基礎事実
次の記載事実は当事者間に争いがない。甲第3号証の3ないし7、10、15?17、21?24、甲第4号証の11、15、18、25、を第1号証の3、7、82ないし86、89、116、117、126、を第2号証の1、2の各記載、甲第3号証の8、甲第4号証の4、6、10、17、19、26、27の各一部記載と弁論全体の趣旨を総合して認めることができ、第1号証の14ないし16、18?20、26、27、第6、8号証の各記載は、以下の認定の妨げにならず、それ以外の反証がない。
ガ.当事者の地位など
(1)原告会社は、製銑、製鋼、圧延材の生産と販売などを営む総合製鉄会社で、被告Aは1981年12月14日に原告会社に入社し、2006年初めから技術開発室電磁鋼板推進組班長として勤務するが、2006年8月31日に退職した後、2007年7月4日、釜山南区でイーエスティーシー(ESTC)との相互の技術諮問(コンサルティング)会社を設立して運営している者、被告Bは、原告会社の技術研究所鋼材研究室内の電磁鋼板の研究グループ研究員として勤務するが、2005年9月9日に退職して2007年6月初め、被告Aに雇われた後、上記イーエスティーシー(ESTC)社が設立されると、上記の会社の専務を務めている者である。
(2)中国上海に本社を置いている宝山鋼鉄は世界 500大企業に選定された中国最大の鉄鋼会社として、主力生産品である特殊鋼の品質と生産規模および高温合金の技術が中国で首導的な地位を占めているが、最近では需要が急増している方向性電磁鋼板の生産を準備している。
ナ.電磁鋼板の種類と生産方式、原告会社の研究開発成果
(1)電磁鋼板は、電気エネルギーを伝達したり、電気エネルギーを機械エネルギーに変えてくれるのに使用される鉄鋼材料で、圧延方向に沿って方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板に大きく分けられ、そのうち方向性電磁鋼板は、一定の方向に磁気(磁气)特性が優れているため、主に超高圧変圧器や大型発電機などの電気機器の鉄心(?心)素材として使用され、無方向性電磁鋼板は、鋼板面上のどの方向にも比較的均等な磁気特性を示すため、主に家電製品や産業機械のモーター(汎用モータ、冷蔵庫やエアコンのコンブレッサーモーター、ハイブリッド自動車用モーター)や小型発電機など回転機器の鉄心材料として使用されるが、中国やインドなどの新興国の電力需要の急増に伴う発電所増設に際して、エネルギーの節約ないし効率的な使用が強調されている最近では、発電所で生産した電気をエンドユーザーに伝達する過程で電気の損失を低減する方向性電磁鋼板の需要が急増しており、これにより方向性電磁鋼板の価格も持続的に上昇している傾向にある。
(2)原告会社は 1990年代までは 「高温加熱」方法(CGO法、製造工程のうち熱間圧延段階でスラブ表面を1400度以上で加熱する方法であり、製造コストが過度に消費されて電磁鋼板の主要な特性である高い磁束密度を得ることができないなどの問題がある)で方向性電磁鋼板を製造してきて、1996年初めから、「低温加熱」方式(HGO法、製造工程中、熱間圧延段階で、1200度以下でスラブを加熱する方法)による方向性電磁鋼板の製造技術の研究開発に着手して以来、2006年末までに150人の研究者、403億4800万ウォンの研究費を投入して、上記の研究開発を継続的に推進した。原告会社は、2000年に一般の方向性電磁鋼板の製造技術を開発し製造に適用し、2002年に高度な方向性電磁鋼板の製造技術までを開発して、そのときから本格的に低温加熱を使用して方向性電磁鋼板を生産しており、脱炭焼鈍炉(熱処理で)1基を新設して以来、着実に生産能力を増強し、2006年には年間17万トン規模の設備を構築するなど、低温加熱方式の生産割合を大幅に増やし始めた結果、2006年度方向性電磁鋼板の部分で売上高3,438億ウォン、純利益1,729ウォンを記録し、世界市場シェア7.0%を占めるほどに画期的な営業成果を収めた。
(3)2007年現在、全世界で「低温加熱方式」で方向性電磁鋼板を量産している鉄鋼会社は新日鉄と原告会社二社に過ぎなかったが、2つの会社の製造技術は、製造工程の中で、脱炭窒化(脱炭窒化、または、脱浸漬(浸窒)とも呼ばれる)工程で差があり、新日本製鉄の低温加熱方式は脱炭を先にして窒化する方法 (脱炭後浸漬, 別名「NAD 法」) として設備も脱炭台と窒化台が別にあるのに比べて,原告会社の低温加熱方式は脱炭と窒化を同時にする方法 ( 同時脱炭浸漬, 別名「SDN 法」) として別途の窒化台はなくより簡単な設備で低温法を具現することができる。
(4)ところで原告会社は独自に開発して実用化した上記のSDN法を国内と外国に特許出願しながらも、SDN法と類似の同時脱炭窒化概念特許 (実際の生産には適用されない ) が新日本製鉄によってもう出願されている日本国には新日鉄との特許紛争を避けるために特許を出願しなかっただけでなく 生産製品も輸出していない。
ダ.原告会社の営業秘密維持及び管理
(1)原告会社は独自のセキュリティ規定とセキュリティ指針などを作って会社の内部技術情報に対してセキュリティレベルを機密(S級)-社外秘A(A級)-社外秘B(B級)-一般(C級)の 4段階に分類して管理していて、その中で「機密」は会社の主要経営戦略, 技術戦略, 生産戦略などの情報であり、担当者と直属の上司役員までのアクセスが機能して、「社外秘A」は意思決定されていない人事資料、投資事業、研究開発成果、研究戦略などに関する情報として、関連部関係者たちの間でのみ共有する必要がある資料で、「社外秘B」はお知らせなどの全職員たちが一緒に共有することができる情報として対外的には秘密で維持するのが適当な情報であり、「一般」カテゴリーの情報は対外的に公表が可能な情報で、原告会社は電磁鋼板製造技術の中で方向性電磁鋼板の製造技術に対しては特に最高レベルのセキュリティレベルである機密(S級)で分類して極秘で管理し、高級無方向性電磁鋼板の製造技術も社外秘Aで管理しており、特に別紙第1リストの番号1、3 ~ 8 記載の研究資料についてはパンフレットの表紙に 「研究セキュリティレベル」を表示して、表紙の中に
「本研究の研究報告書は原告会社社長の承認なしに社外に流出することができないし、その内容をコピーしたり外部に公開漏らすことができない」という注意事項及びパンフレット番号と部数, 配布先を明示して外部に流出されることを厳格に規制している。
(2)原告会社は全従業員に定期的にセキュリティ教育を実施する一方 「業務と関連して技術情報を外部に流出したり、業務外で使用しない」という内容が記載したセキュリティ誓約書を徴収し保管して、被告Aは2006年1月11日、被告Bは 2004年2月5日に各セキュリティ誓約書を提出した。
(3)これとは別に被告Aは退職直前の 2006年8月29日、「会社勤務の時知得した営業秘密を保有や保存していないことを確認し、自分が管理していた原告会社の秘密に関する資料(個人保有データを含む)は、情報資産返却確認書に基づき、退職まで誠実に返却したことを証明する。退職後 2年間は被告が参加した営業秘密を利用するための目的で競合他社に就業したり、または、その他協力関係(パートナーシップ、顧問、コンサルティングなど)を持たないし、会社の営業秘密(情報)を活用した起業をしない
」という内容の営業秘密保護誓約書(甲第3号証の6)に自筆署名をして会社に提出した。
ラ.被告の技術情報の無断持ち出し
(1)被告Aは退職直前の2006年8月初旬頃、原告会社の電磁鋼板推進課事務所で、原告会社が約11年間、多数の高度な技術者と莫大な研究費を集中投入して開発した低温加熱の方向性と高級無方向性電磁鋼板の製造技術、設備、経営関連資料一切を保管していることを機に、これを抜き取って、退職後、将来の技術コンサルティングなどの名目で中国の紹介の鉄鋼会社に漏えいし利益を得る目的で、原告会社の「新成分系の方向性電磁鋼板製造技術開発」というタイトルの方向性電磁鋼板の製造条件に関する研究報告書を持ち出したのをはじめ、そのときから2006年8月後半まで、別紙第1リスト番号1、3?8の各記載の全7件の技術資料(パンフレット)を無断で持ち出し、2006年8月下旬頃、同じ場所で、原告会社の業務用ノートパソコンなどに保管されていた別紙第2リストの番号90記載「0407製鉄技術上審議発表資料(最終).ppt」という名前のコンピュータファイルを専用USBメモリにコピーして持ち出したのをはじめ、別紙第2リスト記載コンピュータのファイルのうち、「主文第1 以下(1)項」記載のファイル54個が含まれている方向性電磁鋼板などの製造技術、設備の写真、経営情報に関するファイルをコピーして持ち出した。
(2)これとは別に、被告Bも退職直前の2005年9月初旬頃、原告会社研究所内電磁鋼板研究グループ事務所で、原告会社で厳しく保管管理している技術情報である「低温加熱方向性電磁鋼板で、炭素添加量が2次再結晶に及ぼす影響」という資料を持ち出したのをはじめ、別紙第1リスト番号 20,21,32 記載の原告会社の資料である方向性電磁鋼板製造関連技術資料 3件を無断で持ち出し、その頃、上記の電磁鋼板研究グループ事務所を退職して、自分の個人用ノートパソコンに仕事上保管していた原告会社の方向性電磁鋼板設備情報に関する資料である
「新低温AP1999P320.pdf」というタイトルのコンピューターファイルを削除したり会社に返すことなくてそのまま保存持ち出したのを含めて、別紙第3リスト番号3,4記載と一緒に原告会社のファイル 2個を持ち出した。
マ.被告らの技術情報の漏洩や不正な利益の取得
(1)被告Aは2006年10月頃、浦項市南区にある食堂で、被告Bに「原告会社を辞めて『ラ.の(1)』項記載の低温加熱方向性版製造技術等に関する資料を持ち出したので、宝山鋼鉄など中国の鉄鋼会社を相手に製造技術を伝授するとともに、操業のノウハウなどについての技術諮問(コンサルティング)をする技術移転事業を一緒にしよう
」と提案し、これを受諾した被告Bと搬出した原告会社の研究資料などの技術情報を中国の鉄鋼メーカーに渡して、その対価として雇用費と諮問料などの名目で利益を授受できるようにシミュレートした。
(2)その被告Aは、宝山鋼鉄を中心に協議を進行する一方 、2007年1 月~2月頃、被告Bに中国の鞍山鋼鉄と武漢鋼鉄の電磁鋼板責任者と接触することができる連絡先を調べるように指示し、この被告Bは2007年2月末頃、武漢鋼鉄と鞍山鋼鉄他の中国鉄鋼会社の電磁鋼板分野責任者に電子メールを送って接触を試みるなど役割を分担し、上記の情報を買収する中国の鉄鋼会社を探した結果、被告Aは2007年5月10日、中国の上海で宝山鋼鉄スタッフのチャンヒジュン(Zhang Pi Jun)との間に上記のように密かに流出した方向性電磁鋼板製造技術などの技術情報の一切を宝山鋼鉄に渡し、その見返りとして3回にわたり計550万ドル(約50億ウォン)の支給を受けることにする内容の技術コンサルタント契約を締結した。形式上ではイーエスティーシー(ESTC)と宝山鋼鉄の香港販売法人(Baosteel Hong Kong Trading
Company Ltd.) 名義で「イーエスティーシー側で宝山鋼鉄に 3年間の市場研究サービスを提供し、宝山鋼鉄従業員らを相手に技術的アドバイスをして、3年間の雇用費を 550万ドルと決める」と言う内容の市場研究サービス契約書を作成した。
(3)この被告Aは2007年5月15日、中国上海の宝山鋼鉄のオフィスで、原告会社の研究資料である「P'S SL-Process Resarch report 1st」(低温加熱方向性電磁鋼板プロセス研究報告書)など4冊の冊子と別紙第2のリスト記載のコンピュータファイルの主文「第1以下(1)」項記載のファイル54個が含まれている方向性電磁鋼板などの製造技術、設備の写真、経営情報に関する各種ファイルが保存されていたノートブックコンピュータをチャンヒジュンに丸ごと渡し、続いて2007年5月30日に同じ場所で、原告会社の「電磁鋼板製造設備の購入仕様書(P's Purchasing Specifications)#1DCNL(脱炭窒化熱処理炉設備)、ZRM(20段冷間圧延機)、#2CDF(高温熱処理炉設備)、#2HCL(平坦化塗料熱処理設備)、#3ACL(連続塗料及び熱処理設備)」など5冊の技術情報に関する冊子をチャンヒジュンに渡し、2007年6月初め、被告Bと正式に雇用契約を締結した2007年6月14日から同年9月まで、被告Bと一緒に10回にわたって、中国宝山鋼鉄の関係者たちを相手に膨大な方向性電磁鋼板の製造技術などのコンサルティング、教育をした。
(4)そして被告Bは2007年6月20日、イーエスティーシー事務所で上記(2)項記載のように無断搬出した技術情報のうち、別紙第2リストの番号168記載「0.23 mm PH04級方向性電磁鋼板開発完了簿Ppt」というファイルなどをもとに、別紙第3のリスト番号7記載「070620方向性Al分析法。Ppt」という教材用資料を編集して宝山鋼鉄従業員への講義の教材として活用した。
(5)一方、被告Aは2007年6月14日、宝山鋼鉄の香港販売法人から1次分雇用費名目で150万ドル(当時為替レートで換算すれば1,390,135,703ウォン)の送金を受けたが、被告Bにはこれを隠したまま二度にかけて給与名目で合計1,700万ウォンだけを支給しただけで残りの雇用費の大部分を大型マンションと高級乗用車購入、株式投資など自身の個人用途で消費した。
バ.被告らの刑事裁判の結果
(1)被告らは、上記のような原告会社の業務上のデータの無断持ち出しや技術流出の事実が摘発され、2007年10月26日、「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律違反罪」などで拘束起訴されたが、第一審(大邱(テグ)地方裁判所2007高合449号)では、2008年4月8日、被告Aについては懲役3年の実刑が、被告Bについては懲役1年6月執行猶予3年がそれぞれ言い渡され、控訴審(大邱(テグ)高裁2008ノ188号)は、被告Aについては懲役3年執行猶予5年、被告Bについては懲役1年執行猶予2年がそれぞれ言い渡されており、被告らの上告断念で上記の控訴審判決がそのまま確定された。
(2)上記刑事裁判で、当初、原告会社の告発内容にのっとって別紙第1 ないし 3リスト記載資料と技術情報全体を原告会社の営業秘密と見たが、内容が重なっている類似の資料とファイル、もう公開されている外国資料の翻訳本などが含まれたという被告たちの指摘に基づいて、 4回の公訴状変更を通じて重なっている類似の資料または既に公開されたり公知の技術情報を除いた結果、別紙第1ないし第3のリスト記載の資料の中主文「第1以下(1)」項の記載のデータだけが上記の刑事判決で有罪と確定した犯罪事実に含まれていた(以下では便宜上、別紙第1ないし第3のリスト記載データすべてを「この事件全体のデータ」で、その中で上記刑事判決で有罪と確定した犯罪事実に記載された資料を「主文記載のデータ」として区別する)。
2 この事件の営業秘密の範囲
この事件本案請求に関する判断に先立ち、原告会社の営業秘密として認められる資料の範囲について調べることにする。
原告会社は、主位的には「この事件全体のデータ」が、予備的には「主文記載のデータ」が原告会社の営業秘密に該当すると主張する。
これに対して、被告は、自分たちが流出した低温加熱の方向性電磁鋼板の製造技術などの関連資料は、原告会社は新日鉄の専任技術者から不正に取得したもので、原告会社で新日鉄とは異なる固有性や進歩性のある技術を開発したものではなく、新日鉄の技術をそのまま使用しているものなので、原告会社の営業秘密ということでなく、さらに新日鉄の上記の技術は、現在特許期間が終了して公知の技術に該当すると主張する。
ナ.営業秘密性に対する判断
(1)営業秘密の成立及び要件
旧「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(2007.12.21法律第8767号に改正される前のもの、以下では、「不正競争防止法」という)第2条第2 号は「営業秘密とは、一般的に公然と知られておらず、独立した経済的価値を持つものとして、相当の努力によって秘密に維持・管理された生産方法、販売方法その他営業活動に有用な技術上または経営上の情報をいう」と規定している。
まず、「公然と知られていではない(非公知性)」とは、その情報が刊行物等の媒体に取り上げられ、不特定多数の者に知られていないため、所有者を通さずにはその情報を通常入手できなければ十分で、特別な固有性や進歩性を要するものではなく、次に
「独立した経済的価値(経済的有用性)」とはその情報の保有者がその情報の使用を通じて競争者に対して競争上の利益を得ることができるとか、またはその情報の取得や開発のために相当な費用や努力が必要だということなので、何らかの情報が上記のような要件をすべて備えている場合、上記の情報はすぐに営業活動に使用することができるほどの完成した段階に達していなかったり、実際の第三者に何の助けにもならないとか、誰もが試作品さえあれば実験を通じて分かることができる情報と言っても上記の情報を営業秘密と見るのに障害になることではなく、最後に、「相当な努力により秘密として維持される(秘密保持性)」ということは、その情報が秘密であると認識されることを示すのか、告知をして、その情報にアクセスできる対象者やアクセス方法を制限したり、その情報にアクセスした者に守秘義務を課すなど、客観的にその情報が秘密として維持・管理されているという事実が認識可能な状態であることを言うので、営業秘密の保有者である会社が従業員に秘密保持の義務を課すなど、技術情報を厳重に管理している以上、リバースエンジニアリングが可能で、彼が技術情報の獲得が可能だとしても、そういう事情だけでその技術情報を営業秘密として見ることに差し支えがあると考えることができない(最高裁判所 2009.7.9. 宣告 2006度7916 判決、最高裁判所 2008.2.15. 宣告 2005度6223 判決、2006.10.27. 宣告 2004度6876 判決、最高裁判所 1999.3.12. 宣告 98度4704 判決、及び最高裁判所 2009.3.16. 2008マ1087 決定参照).
(2)この事件全体の資料の営業秘密性
まず、この事件全体の資料のうち、以下の営業秘密に該当するものと認められた主文の記載資料を除いた残りの資料に対しては、被告が原告会社から無断持ち出した資料に含まれているかどうかも不明なだけでなく、営業秘密としての要件を独自に備えているとみる証拠もないので、この部分の原告会社の主張は受け入れられない。
(3)主文記載資料の営業秘密性
(ガ)非公知性
原告会社が幾多の技術者と研究員たちを動員して多年間の試行錯誤を経て研究と実験を繰り返したあげく、新日鉄の一部技術を応用するとか上記の技術に追加して新日鉄とは別に独自の低温加熱方式の方向性電磁鋼板製造技術を開発し、こういうわけで新日鉄の NAD法とは違うプロセスの独自の SDN法による低温加熱方向性電磁鋼板製造技術の製造基準や操業ノウハウを持つようになった点、製造コストや製造技術の一部が特許などを通じて公開されていると言っても、これは非常に広範で抽象的な範囲内でのみ公開される点(すなわち、第1号証の 59, 107 ないし 110の各記載によれば、①原告会社の特許には、成分条件が比較的具体的に提示されているが、新日鉄の基本特許と改良特許には、成分条件についてMn、C、P、Bなどの基準が提示されておらず、②工程の条件の中でも、原告会社の特許は、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍塗布剤について基準を提示しておらず、新日鉄の特許も熱間圧延、予備焼鈍温度、冷間圧延、脱炭焼鈍温度と雰囲気、高温熱処理時昇温および亀裂等についての基準が提示されておらず、③特に重要な窒化反応に対して原告会社の特許では、
「同時脱炭、窒化」と記載されているが、新日鉄の特許には、「脱炭終了後、2次再結晶途中に焼鈍分離剤、窒化物を添加したり、窒化雰囲気で熱処理した後、焼鈍分離剤をコーティングしたり脱炭工程後半に窒化する
」という主旨だけ記載されている)、主文記載の資料は、すべて原告会社は各種の実験や繰り返し操業結果をもとに作成した操業ノウハウ(know-how)、設備等に関するもので、特許で公開されていないデータであるだけでなく、原告会社の機密等に分類されて、限られた業務担当者を除いた他の従業員のアクセスを制限している点は、「第1項の認定事実」で見てきたが、これに加えて、先に挙げた甲第4号証の15,16、と第2号証の1の各記載及び弁論全体の趣旨を総合すると、被告が流出した資料中主文記載のデータは、新日鉄や原告会社の特許出願公開された成分の条件や工程条件に加えて、原告会社は、電磁鋼板設備投資の際に必要な数回の試験と操業経験を基に実装した最適な操業ノウハウを実装することができる設備の基本要件と設備別要件、図面を収録したデータか、または{「第1のマ.(3)」項記載の電磁鋼板の製造設備購入仕様書など5冊の冊子}、低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造技術を開発するために、いくつかの成分系を検討して、Al以外の他の元素を利用する可能性を確認するためにAlのような役割を果たすことが期待されるCe、Zr、Bの検討報告書(別紙第1のリストの番号1記載「新成分系の方向性電磁鋼板の製造技術開発」)、または最高級方向性電磁鋼板の製造技術であるレーザー処理による磁区微細化技術を原告会社が開発し適用した内容を整理した資料(別紙第3のリストの番号90記載「0407製鉄技術上審議発表資料。Ppt」)であるという事実を認めることができる。
上記のような事実関係を総合して見るとき、原告会社の低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造工法は、原告会社で長く自主的に研究開発を重ねた末に結実した進歩的な新技術で見られる余地が多いだけでなく、たとえそうではない場合でも、上記の製造工法に関する技術情報である主文記載の資料は、すべて原告会社が、高レベルの方向性電磁鋼板を生産するために理論の探求と実験を通じて蓄積した研究成果物であるか、生産ラインで繰り返された操業を介して多くの費用と試行錯誤を経ながら習得した操業ノウハウ、長年の操業活動を介して設備を交換したり、改良して得られた成果物、または長年の間、電磁鋼板の生産と販売に従事して得た営業ノウハウとしての製造方法に関する高度の技術情報が含まれており、保有者である原告会社を通さなくてはその情報を通常手に入れることができない「公然知られていない情報」に該当することが相当である。
これに反して、第1号証の14ないし16、18?20、26、27の各記載で伺える一部の問題、すなわち、原告会社が低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術を開発する時、新日鉄の退役技術者または日本の技術諮問会社と請負契約を締結し、これらから新日鉄の各種資料と情報の提供を受けたという疑惑を受けている点、原告会社と新日鉄の低温加熱方向性電磁鋼板の製造技術は、低温加熱方式では、基本原理や成分系など類似点が多く、製造工程中脱炭窒化工程のみ多少の違いがあるというだけでは被告らの主張のように主文記載の資料の内容が、鉄鋼業界で公然と知られている公開・公知の事実に該当すると見ることができず、付加的に原告会社が低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造技術に関する情報を独自に開発したのか、または基盤技術を正当な方法で取得して改良しているかどうかは、あくまで原告会社と源泉技術を保有していた会社との間で選り分けられなければならない問題であって、原告会社の退職者として在職の中で知得した原告会社の営業秘密を守る義務を負担している被告たちが犯した営業秘密侵害行為を正当化することができる事由になることができないことを指摘する。
(ナ)経済的有用性
被告が退職し、原告会社から持ち出した主文記載の資料は、低温加熱方向性電磁鋼板と詳細な無方向性電磁鋼板の製造技術や設備に関する情報であり、前記のように新日鉄の特許で公開した一般的な製造コストや製造基準とは異なり、すべて原告会社が、高レベルの方向性電磁鋼板を生産するために莫大な費用と試行錯誤を経ながら習得した操業ノウハウ、長年の操業活動を介して設備を交換し改良して得られた成果物、または長い間、電磁鋼板の生産と販売に従事して得られた営業ノウハウとして独立した経済的価値を持っており、その他被告が流出した主文記載の資料の中には、現場と技術開発過程での失敗事例まで含まれており、このような失敗事例も後発競合企業の立場では、試行錯誤を減らすために貢献し、研究費の投資額を削減することができるので、経済的に価値があると考えるのが相当である。
(ダ)秘密保持性
前記のように、原告会社は、主文記載の資料に対して最高のセキュリティ級機密に分類して極秘に管理し、外部への流出を禁止したり、少なくとも社外秘Aに分類しながら、担当職員や研究員たちを相手に、定期的にセキュリティ誓約書を提出させて、退職する主要な技術者と研究者については、「在職中知得した営業秘密を外部に漏洩したり、活用して、創業または第三者との協力関係を持つことはしない」という内容の営業秘密保護誓約書を別に提出されるなど、かなりの程度に秘密保持のための努力をしていたので、主文記載の資料は、原告会社が極秘に維持・管理している原告会社特有の生産技術に関する情報に該当すると考えるのが相当である。たとえ被告らの主張のように主文記載の資料の多くが鉄鋼業界では公知または公開された技術情報が含まれているだけでなく、全体の技術レベルがあまり劇的ではなくて、宝山鋼鉄など、中国の後発鉄鋼会社が原告会社の低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造工法を詳細に分析・検討して、独自の研究や試験生産などを繰り返したり、新日鉄など他の先進鉄鋼会社の助けを少し受ければ、その概要を知ることができるか、原告会社の技術水準に相応する程度の製造工法を模倣することができたとしても、違って見ることはない。
(4)結び
したがって、被告が流出した主文記載のデータはすべて非公知性、経済的有用性、秘密保持性など不正競争防止法に規定する営業秘密としての成立要件をすべて満たしている。
3.この事件の請求に関する判断
ガ.営業秘密の侵害差止請求部分
(1)被告らの営業秘密の侵害
前記のように、被告は、在職中はもちろん退職後も原告会社に対して、営業秘密遵守義務を負担しているにもかかわらず不正な利得を狙って、原告会社の営業秘密である主文記載の資料を宝山鋼鉄に販売することを共謀した点が認められ、さらに先に挙げた証拠を総合すると、被告Aは、業務用として使用していたノートブックコンピュータの原告会社の業務用データの不要なファイルを削除し、低温加熱方向性電磁鋼板の製造工法に関する技術情報を事前に準備していた2Gb容量のUSBメモリスティックにコピーして持ち出し、その後上記のUSBメモリスティックにコピーしたデータを新たに購入したノートパソコンにコピーをして、中国では、宝山鋼鉄担当者にノートパソコンを丸ごと渡し、退職する直前の2006年8月頃からは、オフィスのパンフレットも一、二冊ずつ取り出して家に持っていくなど、事前に計画を立て、緻密な方法で主文記載のデータを密かに搬出したこと、被告Bは、休職をしてから退職したため、会社で誓約書などの徴収や上記の被告が外部に搬出する荷物の管理が疎かな隙を利用して7?8箱程度の分量の様々な書類などを搬出した事実が認められる。
上記のような事実関係を総合すると、被告らは、退職時に原告会社によって独自だけでなく個別な特有の生産技術である低温加熱方式の方向性や高級無方向性電磁鋼板の製造技術に関する営業秘密保持契約を締結したにもかかわらず、上記の生産技術に関する重要な情報を密かに持ち出し、原告会社の営業秘密を不正な方法で取得した上で共謀して技術コンサルティングをして低温加熱方式の方向性や高級無方向性電磁鋼板の生産を準備していた後発の競争会社の中国の宝山鋼鉄へ主文記載の資料を提供し、施術の講義をするように原告会社の営業秘密を漏洩することにより、少なくとも主文記載資料の市場交換した価格に相当する金額不詳の財産上の利益を取得するとともに、原告会社の供給量の増加と後発の中国の鉄鋼メーカーの競争力強化に伴う金額不詳の営業利益減少分相当の損害を加えただけに、被告らのこのような行為は、明らかに不正競争防止法第2条第3号で規定する営業秘密の侵害行為に該当するだろう。
(2)被告らの営業秘密侵害差止義務
さらに被告らが共同で犯した営業秘密の侵害行為により原告会社の営業利益が大幅に侵害したにもかかわらず被告が原告会社の技術開発を非難し、原告会社が保有している低温加熱方式の方向性電磁鋼板の製造技術の進歩の成果新規性を否定しながら主文記載の資料の返還を頑として拒否しているこの事件では、今後も被告らによって、そのような営業秘密の侵害が続く可能性が高いことが懸念されているだけに、その禁止及び予防措置として、被告たちに対して主文記載資料を他人に売買などで譲渡するとか、この事件の秘密情報を利用した技術諮問行為をしてはならず、主文記載の情報や上記のデータが入ったUSBメモリやノートパソコンなどのコンピュータに保存された情報をすべて破棄または削除するように具体的な義務を課すことが切実に必要と判断される。
(3) 結び
したがって、原告会社の被告たちに対する営業秘密侵害差止請求は、原告会社の営業秘密として認められる主文記載資料に限ってのみ、これを受け入れる。
ナ.損害賠償請求の発生
(1)損害賠償責任の発生
(が)被告らの不真正連帯賠償責任
被告らは共謀して原告会社の営業秘密を外国の鉄鋼会社に漏らし不正な利得を取得し、これによって、原告会社が営業上の利益を侵害される損害を被ったので、不正競争防止法第11条の規定により被告らは共同不法行為者として原告会社に対して不真正連帯の損害賠償責任を負わなければならない。
(な)被告Bの責任の制限の抗弁に関する判断
これに対して、被告Bは被告Aと事前に原告会社の営業秘密を使用し、違法コンサルティングの代価として巨額の不正な利益を取得することに共謀したことがないだけでなく、実際の取得した不正利益は1700万ウォンに過ぎないのに、上記の被告の関与状況や実現した損害についての具体的な責任割合を全く考慮しないまま、被告Aと同等に不真正連帯賠償責任を負わせるのは不当なので、上記の被告の損害賠償責任の範囲を制限しなければならないという趣旨で主張する。
察するが、共同不法行為による損害賠償責任の範囲は被害者に対する関係で加害者たち全員の行為を全体的に一緒に評価して決めなければならず、その損害賠償額については、加害者それぞれが、その金額のすべての責任を負担するものであり、加害者の1人が他の加害者に比べて違法行為に加担した程度がわずかであっても、被害者の関係では、加害者の責任範囲を上記のように定められた損害賠償額の一部に制限して認めることはできないということなので(最高裁判所2007.6.14宣告2005も32999判決など参照)、被告Bの責任の制限の抗弁は、さらに検討する必要がなく、理由がない。
(2)損害賠償責任の範囲
(ガ)不正競争防止法第14条の2第2項は、不正競争行為又は営業秘密の侵害行為により営業上の利益を侵害された者が第5条又は第11条の規定による損害賠償を請求する場合は、営業上の利益を侵害した者がその侵害行為によって利益を受けたことがあったときは、その利益の額を営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定すると規定している。
(ナ)前述の事実関係に示すように、被告らが、中国の宝山鋼鉄との間に合計550万ドルを受けることにしている内容のコンサルティング契約を締結した点、上記のコンサルティング契約の内容によると、被告○○が主文記載の資料一式を渡してから3年間、宝山鋼鉄の職員を対象に技術コンサルティングをした点、被告は、上記のコンサルティング契約を締結した後、数回宝山鋼鉄職員を対象に低温加熱方式の方向性電磁鋼板などの製造工法に関する教育をしながら、主文記載の資料らを活用して上記の職員たちのための教材を用意し、直ちに返事できなかった質問に対しては、後日情報が入手されたときに知らせる事にした点等を総合して見る時、被告は、主文記載の資料を不正取得・使用した営業秘密の侵害行為に基づいて受ける利益の額は上記のコンサルティング契約に基づく支払の約定金額合計550万ドルのうち、現実的に受領した150万ドルで、原告会社が被告らの正当な技術コンサルティング費用であるとしている契約金額の5%相当である7万5,000ドル(150万ドル×5/100)を差し引いた142万5,000ドルとなり、これは原告会社が被告らの営業秘密の侵害行為により被った損害の額と推定される。さらに先に見たように、当時の上記150万ドルがウォンに換算されて被告○○の口座に振り込まれた金額は、1,390,135,703ウォンなので、当時、米国ドルに対するウォンの銀行振り込みの為替レートは926.76円(1,390,135,703円÷150万ドル、小数点以下3桁で四捨五入)となり、上記の銀行振り込みの為替レートを適用して原告会社の推定損害額142万5,000ドルをウォンに換算すると13億2062万8918ウォン(ウォン未満は四捨五入)であり、原告会社が、この事件で被告たちに対して損害賠償金の一部として請求した2億ウォンをはるかに超えている。
(3)結び
したがって、被告らは共同不法行為者としてそれぞれ原告に推定損害額1,320,628,918円のうち、原告が求める一部の損害賠償金2億ウォンと、これに対し、原告が求めるところにより、2007年5月10日から第一審の判決宣告日である2008年8月29日まで民法が定めた年5%、その翌日から返済日までは「訴訟促進等に関する特例法」が定めた年間20%の各割合で計算したお金を支払う義務がある。
4.結論
よって、原告会社の被告に対するこの事件の請求のうち、営業秘密の侵害差止請求は上記の認定範囲内で、損害賠償請求はすべて理由があってこれをすべて引用して、その余の営業秘密の侵害に関する訴訟は理由なくこれを棄却しなければならないこと、第一審の判決の中でこの結論を一部変えた部分は不当なのでこれに対する被告らの控訴を一部受け入れ、第1審の判決を上記のように変更することで、主文のとおり判決とする。
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