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中国ニュース



第5 中国の大学と研究機関について

1 中国の学校教育制度

(1) 中国の学校教育制度は法律用語上、「学前教育」「初等教育」「中等教育」「高等教育」に分けられる(教育法第17条、1995年施行)。

高等学歴教育の中に専科教育、本科教育、研究生教育がある(16条)。

専科教育

修業年限23

基礎理論、基礎知識、基本技能、実際の仕事上の基本技能と初歩能力の習得、

本科教育

修業年限45

系統の学科の基礎理論、基本知識、研究作業の初歩能力など取得

碩士研究生教育

修業年限 2〜3

系統の専門知識、実際の仕事に従事し研究作業を行える能力

博士研究生教育

修業年限 3〜4

創造性のある科学研究作業に従事し、実際の仕事能力を有する。

学位制度は学士、碩士、博士に分かれる(22条)。


(2)学校の設立

法人格を取得し民事上の権利義務の主体になる。

「学校およびその他の教育機構は法人の条件を備える場合には批准設立または登記登録の日から法人資格を取得する。学校およびその他の教育機構は民事活動中においては民事の権利を法により享有し、民事責任を負う学校およびその他の教育機構中の国有資産は国家の所有に属する。学校およびその他の教育機構が起こした「校弁産業」は独立して民事責任を負う(教育法31条)。

高等学校は校長が法定代表人となる(高等教育法30条)。高等学校の民事活動中は民事権利を享有し、民事責任を負う。

高等学校は設立者の提供した財産、国家財政の援助、受領した寄付贈与財産に対して法により自主管理と使用を行う。教学と研究活動の財産を他に流用してはならない(38条)。


(3) 学校の責任体制

国家が設立した高等学校については中国共産党高等学校基層委員会の指導の下に校長が責任者となる制度をとる。

高等学校の校長の権限(41条)

人事権、教学活動の組織、内部機構の設置、学の学籍管理などのほか、年関経費予算案を立てて実行し、学校財産を保護管理し、学校の合法的権益を維持する職権と責任がある。

高等学校と校長弁公会議または校務会議が上記の関連事項を処理する。

高等学校は学術委員会を設立し、学科と専業の設置を、教学、科学研究計画案につき審議し、教学、科学研究成果等の学術に関連する事項を評価決定する(42条)。

教員の地位

(ア)高等学校は教師が主体となった教職員代表大会などの組織形式により、法に基づく教職員の参加と民主的管理および監督を保障し、教職員の合法的権益を維持する(43条)。

(イ)高等学校は教師資格制度を実行する(46条)。

教師任用制(聘用制)を実行し、任職条件を備えているかを評価判断し、教師の職責によって条件・任期を定めて任用する。双方平等自主の原則を遵守し、校長と教師の任用契約(聘任合同)を締結する(48条)。


(4)民営大学(民弁)

1993年より企業、個人等による民営大学の設置が認可され、積極的に進められている。20054月現在で239校である。民弁教育推進法(20039月施行)が制定されている。

法人格を取得し、(同法9条)外国教育機関と中国教育機関との共同による学校・課程の設置ができる(中外共同学校設置条例(20039月施行))。

なお高等教育を行う中外共同設置学校の場合には法人格を持たなくとも良い(11条)。



2 中国の大学と知的財産権

(1)知的財産権の帰属

(ア)高等学校(大学を含む)名義で申請登録した商標

校標、高等学校のその他の服務標記(高等学校知識産権保護管理規定7条)


(イ)本校および所属機関の任務を実行するかあるいは本校および所属機関の物質技術条件を主に利用して完成した発明創造もしくはその他の技術成果は高等学校の職務発明または職務技術成果とする(同法81項)。

職務発明創造の特許出願権は高等学校に属し、特許権は法により与えられた後は高等学校が有する。職務技術成果の使用権、譲渡権は高等学校が享有する(82項)。


(ウ)著作物、工程設計、製品設計図面、コンピュータソフト、地図なども著作権を高等学校が有する(10条)。


(エ)高等学校の科学研究作業任務中に形成された情報、資料、プログラムなどの技術秘密は高等学校の所有に属する(11条)。


(オ)高等学校が派遣し出国訪問し、研究し、留学した者および合作プロジェクトの研究人員が在校中にすでに進めていた研究でかつ国外で完成可能となった発明創造について知的財産権を取得した場合には、派遣した高等学校と協議書を締結しその発明創造その他の知的財産権の帰属につき確定しなければならない(12条)。


(カ)高等学校に在学し、学習、研究もしくは合作プロジェクトの研究をした学生、研究人員が在校期間に参加し指導者が本校研究課題もしくは学校が準備した任務を承認し完成した発明創造およびその技術成果については、別途協議があった場合を除き、高等学校に帰属享有する。博士課程後の流動化する人員は、流動化の前に知的財産権問題と流動化につき専門協議書を締結しなければならない(13条)。


(2)高等学校(大学を含む)の知的財産管理機構

(ア)高等学校は知的財産権連絡会議制度を設立しなければならず健全な知的財産権業務機構を作る。条件の整った学校では、知的財産権登記管理制度を実行し、知的財産権保護・管理業務機構を設立し、当該機関の知的財産権保護業務を統一して管理できる(16条)。


(イ)科学研究活動中に作出された職務発明創造もしくは形成された職務技術成果については課題の責任者は速やかに当該学校の科研管理機構(知的財産管理機構)に申請する特許の建議書を提出し関連資料を提出しなければならない。

管理機構はそれら書面を審査し、申請すべき特許については速やかに特許申請手続きを行い、申請しない特許の技術秘密については保護措置をとらなければならない(18条)。


(ウ)高等学校は知的財産権契約を締結し、審査し管理業務をおこなう。高等学校とその所属機関が国内外の機関又は個人と共同して科学研究・技術開発を行い知的財産権譲渡もしくはライセンス許諾に進む場合には、法により書面契約を締結し知的財産権の帰属とそれに関する権利義務につき明確にしなければならない(19条)。

高等学校の所属機関が知的財産権譲渡もしくはライセンス許諾に進む場合には、事前に学校知的財産権管理機構の審査を経てかつ学校に報告し批准を受けなければならない(20条)。

高等学校は知的財産権の価値評価業務の展開を重視しなければならず、知的財産権資産評価組織と管理を進めなければならない。

高等学校は対外的知的財産権譲渡、ライセンス許諾に進み、価格評価して株式投資しまたは校弁企業に投入する場合には知的財産権資産評価を行わなければならない(23条)。


(エ)中国人研究者は中国の法令上、以下のような義務を負っている。

日本の大学に出張滞在し、日本で発明を行った中国人研究者が日本の大学や機関と雇用契約を締結し、勤務していた場合には特許を受ける権利の帰属については、日本国特許法により、また雇用契約その他勤務規則等の規定に従い決定され、日本にある中国大使館公使館が、日本国特許法に照らして職務発明であることを確認した後に、研究者所属の大学・機関が特許出願するべきであるとされている(我国の学者が国外で完成した発明特許出願に関する規定(国専発法字第13号、1986年))。

 上記規定によれば、日本特許法上、職務発明に明らかに該当するといえない場合には、中国大使館公使館が、日本の文科省等と協議して、中国側(研究者個人と中国での所属機関)の特許出願権または日本側との共同出願権とするよう努力すべきであるとされる。なお上記規定では、中国人が中国国内で完成した発明を勝手に外国に出願してはならないとしており、中国人研究者がこのような義務を負っていることに留意すべきである。


3 校弁企業

(1)定義

校弁企業とは「中国版大学発ベンチャー」の意味で用いられることが多いが、法律上の用語である。何らかの形で大学の管理下に置かれている企業で、資金が大学から出ており、大学が株主となっているのが多い。教員や従業員も出資している。

校弁企業については、以下の問題点が指摘されてきた。

@当該企業の経営上のリスクを大学が負ってしまい、その結果、大学の信用やブランドも低下させるおそれ

A企業経営の能力に欠ける大学が経営に介入することの問題

B資産の帰属が大学なのか、校弁企業なのか不明確


(2)校弁企業改革

@ 200111月、「北京大学および清華大学の輩出企業管理体制試験的規範化に関する指導意見」が国務院から出される。

国務院体制改革弁公室と国家教育部が主体となり、上記2大学で試験的に実施。

 意識されている問題点

→ 大学輩出企業の財産権の帰属が不明瞭

   大学が企業運営のリスクを直接負うこと

   統一された管理体制がない

A 北京大学 上記指導意見を受けて、2002年、北大資産管理公司を設立

 資産整理と照合作業が終了後、大学が所有するすべての経営性国有資産が資産管理会社に移され大学自身は企業等に対して直接投資ができなくなる予定であった。

B 清華大学は、もっとも校弁企業改革に成功しつつある例とされる。

 清華大学―――清華控股有限公司――― 33の企業の51%以上の株式を保有する(2006年度)

 このうち重点企業として、同方股?有限公司、紫光股?有限公司、科威国際技術転移有限公司など14企業がある。6社が中国A株上場(中国本土企業で国内投資家のみ取引可の市場)を行った。清華控股有限公司は20039月、設立登記した。登録資本金は20億人民元。国務院の批准を経て清華大学が出資設立した国有独資有限責任公司である。          2006年総資産280億元、経営総収入213億元であった。

 清華大学では、海外提携として企業合作委員会に他国籍企業などが会員となり、共同開発・委託開発を行っている。研究経費の投資を外部から受け入れている。

 清華大学には知的財産権管理弁公室があり、技術移転センターを下部に持ち、技術移転等を行う。清華控股有限公司を通じて、その参加企業に知的財産権を投資(現物出資)する。またサイエンスパーク内の企業に技術移転したり、地方政府の出資の設立企業に技術移転したりしている。


4 研究機関

中国科学院が代表的である。

中国科学院からも企業が生まれており、1984年、中国科学院計算機研究所の研究者により設立されたレノボ(聯想)が有名である。レノボの株式を所有する持株会社の支配株主は中国科学院である。その他には北京三環新材料ハイテク公司、成都地奧製薬集団有限公司、中国大恒集団有限公司、北京中関村科学城建設などがある。中国科学院は1949年11月に創立され、国務院に直属しており、その傘下に多くの研究所(北京市内に中国科学院物理研究所など46、市外に76)を中国全土に有している。分院を主要都市(北京、上海、広州、武漢、南京、成都、長春、昆明、沈陽、西安、新彊、蘭州)に置いており、教育機関として中国科学技術大学、中国科学院大学院を有する。中国科学院院士、中国工程院院士などを多数擁している。

 基本方針は国家の戦略方針と世界の最先端の科学に対応し、イノベーションを行い中国の科学技術を世界最高水準に到達させることである。

中国では産学官連携とはいわず、産学研連携というが、中国科学院のような研究機関(院)が主たる役割を担っているためである。

中国科学院のHPより。http://www.cas.ac.cn/

日本学術振興会との間で拠点大学方式学術交流事業を行っている。




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