尾近法律事務所 本文へジャンプ
中国ニュース

1労働問題


  • 労働契約法第3稿のポイント

 労働契約法第三稿は、公表されていないものの、すでに検討のため特定の範囲で配布されている。以下、第三次草案につき第二次草案のからの変更点を検討し、かつ全文を紹介する。変更点としては七つのポイントがある。 
1、 第三次草案では、規定の体裁の上で、労働関係の成立と労働契約の締結との関係をより明確にした。第二次草案では、会社と労働者との間で、労働者を任用する日から労働関係が成立し、労働関係を成立させるには雇用手続を取るべきであり、書面労働契約を交わさなければならないとだけ規定されていたため、書面労働契約の締結は労働者を任用する前でも、労働関係が成立するのと同時でも、又労働関係成立後一ヶ月以内でも可能であると解釈できた。
第三次草案では以下の通り規定された。
「労働関係を成立させるには書面労働契約を交わさなければならない」、
「会社が労働者を雇用する日から労働者との労働関係が成立する。検査に備え会社が従業員名簿を作らなければならない」、
「労働関係がすでに成立したが、書面労働契約を交わしていなかった場合、労働者を雇用する日より後一ヶ月以内に書面労働契約を交わさなければならない」
「会社が労働者を雇用する前に労働契約を交わした場合、労働関係は労働者を雇用する日から成立する」
  第二次草案の「労働者の雇用手続を取る」という条項を今回、より具体的な「検査に備え従業員名簿を作らなければならない」と修正した。従業員名簿の作成の条文を労働関係形成の条文の次に置き、規定の体裁として両者を密接に結びつけた。これは、労働紛争が起った時に、労働関係が形成されていたかどうかにつき、労働者の証拠収集を容易にするためである。「会社が労働者を任用する前に労働者との労働契約を交わした場合、労働関係はその労働者を雇用する日から成立する」という条項を新設した。この規定は実際には労働者保護に不利に働く場合があるという見解もある。例えば、大学生が卒業したらある会社に出勤すると約束されたていたが、会社自身の都合でその出勤時期を再三、延期した場合、三審稿の規定によれば、労働契約は既に交わしたにもかかわらず、労働関係が成立していない、そのため、会社が当該卒業生の給与或は報酬を支払う義務はない。これは明らかに労働者の利益保護に不利であるというのである。
2、 第二の修正点は労働者の研修養成に関する労働期間の協議である。第2次草案によれば、「会社は養成費用を負担し、労働者に対して一ヶ月以上の生産から離れた専門技術養成或は職業養成を行う場合、当該労働者と服務期間を合意できる」と規定されていた。第3次草案では「使用者が国家の規定した従業員養成費以外に特別養成費を提供し、労働者に対し特別技術養成を行う場合、当該労働者と協議を締結し、服務期間を約定することができる。」と修正した。その中で、「一ヶ月以上の生産を離れた」という限定を削除した。したがって第2次草案よりも使用者が服務期間を制限できる場合がふえたといえる。ただし、これでもまだ使用者に厳しすぎるのではないかとも考えられる。会社が法定養成費用を使い従業員研修を行うことだけでは当該労働者と労働期間を約束することはできないという規定は不合理なのではないかとの見解がある。従業員養成費用は法に基づき処出されるが、国家によって提供されるわけではなく、会社によって支払われるものである。会社が当該費用を使用し、従業員を養成した場合の労働期間の約束を制限するのは会社にとって不公平であるとの見解もある。また、別の観点からの批判であるが、法に基づき捻出した費用で養成される労働者と、それ以外の費用で養成される労働者を区別することは困難であると言う意見もある。
3、 第三の修正点は経済的な理由による人員削減問題に関する規定である。第2次草案では企業倒産前のリストラ、生産経営が厳重な困難に陥った場合、汚染予防ための引越しの場合、及び客観的な経済状況の変更により労働契約を履行できない等の四つの場合に、経済的な人員削減を行うことができるとされていた。第3次草案の規定によれば、さらに企業産業転換や技術革新、経営方式調整の場合で、労働契約を変更した後にも、なお人員削除をしなければならない場合、会社は人員削減をすることができる。人員削減できる場合が規定の文言上、少し緩和されたことになる。
4、 第四の修正点は経済補償基準に関する。第2次草案で、ある状況下で、労働契約を解除、または終了するとき、会社は国務院が規定した標準に基づき労働者に対して経済補償金を支払わなければならないと規定されていた。第三次草案では各地で行われている実務に沿って次のような規定を置いた。 
経済補償は労働者がその企業で働く年限によって、満一年毎に一ヶ月の給与を支払うという基準で労働者に対して支払う。一年未満の場合は一年として計算する。
また、「月給」というのは労働者が労働契約を解除、または終了する前の12ヶ月間の平均給与であることを明らかにした。
さらに高収入労働者の補償については、平均月給標準及び経済補償金総額を限定した。すなわち労働者の月給が使用者所在の直轄市或いは区が設置されている市の前年度職工平均月給の3倍以上になる場合、経済補償の基準は職工平均月給の3倍を支払い、経済補償の年限は最高12年を越えないこととされた。高収入でない労働者の補償に対してはそのような限定はない。本条によれば、収入が前年度の職工平均月給三倍よりやや低い労働者とやや高い労働者を比較すると、貰える経済補償の差が大きい。後者には最高12年を超えないという限定があるが、前者にはない。
なお、計算の基数とされる平均給与は税込みか否か、ここでは明確にしていない。上海市労働局は平均給与は税抜きで経済補償金を計算すると規定したが、裁判所は一般的にそう言う扱いとは認めていない。
5、 第五の修正点は集団契約に関する規定の充実である。第2次草案は特別に一節を設けた。すなわち、県級以下の範囲内における鉱業、建築業、飲食サービス業において零細労働者の権益を保護するために業界の集団契約を締結することができると規定した。第三次草案においては、労働組合が企業の従業員の代表として会社と契約を交わし、労働組合が結成されていない会社は「上級労働組合の指導により」労働者が推薦する代表が使用者と契約を交わすという規定にして上級労働組合の指導によることを明確にした。さらに県級以下の範囲内に、区域的な集団契約を締結することができるという規定も付加した。業界(業種別)及び区域的な(地域別)集団契約は当地の当該業界及び区域の使用者と労働者に対して拘束力がある。
なお第2次草案は、労働安全衛生及び給与調整システムに関する二つの特別な集団契約を規定したのみであったが、第3次草案では、企業従業員側が使用者と女性従業員権益保護の専門的な集団契約を締結することができることも付加した。
6、 第六の修正点は労務派遣制度に関する。第2次草案では労働派遣機関、派遣先及び派遣される労働者の三者の権利と義務の観点から特に一節を設けた。第1次草案で見られた派遣労働者一人当たり5000元以上の保障金の規定や、一年後に派遣労働者の派遣が継続する場合に派遣先企業と派遣労働者とが直接労働契約に変更しなければならない旨の規定に比べれば、第2次草案では融通性が見られるようになっていた。
ただし第2次草案は以下の通り規定していた。「(労務派遣機関と派遣労働者との)労働契約の期限満了時、本法第39条、第40条に規定されている状況(紀律違反、厳重な失職及び仕事不適任)がなければ、労働契約を継続しなければならない。」これを第3次草案では削除することにより労務派遣機関の負担を緩和した。
7、第七の修正点は経過規定を増やして、本法施行後の、旧規定と新規定との間の矛盾衝突問題を解決した。先ず、本法が施行される前に法に基づき交わしたうえ、本法が施行される以降も存続する労働契約は履行され続けることとした。次に、固定期限付き労働契約を連続二回交わした場合、契約を更新する時、もし労働者の要求があれば、固定期限のない労働契約を交わさなければならないという規定に関連して、第3次草案は、その中の回数の計算方法を明確にした。第三に、本法が施行される前に労働関係がすでに成立し、労働契約を未だ交わしていない場合、本法が施行される日から一ヶ月以内に労働契約を交わさなければならないとし、最後に本法が施行された後も依然として存続する労働契約は、本法が施行された後に解除され或は終了される場合、経済補償の年限は労働者が本単位において勤続する年限により計算すると規定した。

                                            中国ニュース一覧へ戻る



Copyright(C)2010,Ochika Law Office. All Rights Reserved.