中国の日系企業におけるストライキとして日本で大きく報道されたのは、2005年4月18日から始まった深センのU社でのストである。U社は労働者側が主張しているような低賃金や法令違反はないとしており、時期的に見て反日運動に呼応してのストライキととらえる見方がある。ここでは、中国のネット上で報じられている事実関係(記者が報じたものを転載しているが、どの雑誌記者かは不明)を以下紹介するが、U社の立場は上述の通りであることに留意しておこう。
U社の深セン市宝安区の工場には16000人の労働者が働いており、男性は1000人(研究開発人員と管理人員を含む)、その他は16歳から30歳までの女工であった。日本方の管理人員は400人位いた。U社は中国で15年以上の投資経験があった。
今回のストは中国法人設立以来4回目の大規模なもので、これまでは日本方と中方の管理者、政府部門の協力によりおさまっていた。
2004年12月10日、同社の労働者のほとんどに仕事中に突然以下の手紙が送られてきた。
提議書(呼びかけ書) 全従業員へ
1 労働契約書で双方協議中の第8項第3条の取消し
2 承諾書の締結取消し 理由は、その文書は求人の際に人事部の確認を経たもので問題がある場 合には人事部が一切の責任を負うべきである。
3 労働者の宿舎の水に問題があり、食堂の食事をすみやかに改善すべきである。
4 正月の休暇の帰省旅費は適正に清算すべきである(2000年以前と同様に)。
5 2000年に会社の労働部門が労働組合の結成を承諾したのに未だになされていない。
6 病気欠勤は最低60%の賃金の支払があるはずだが、労働者には病欠、産欠ともになく、逆に生活費が差し引かれている。
7 労働契約書第4項労働安全と社会保険の第3条規定があるのに、なぜ労働者には何も保険がないのか(社会保険は係長級以上にのみある)
8 勤務期間満10年に達した労働者は労働法の規定によれば、「甲乙双方が同意して契約する場合には期限のない契約にしなければならない」とされている。無条件で契約を終了させることはできない。
以下、15項まであるが省略する。
読み終わったのちは皆ぼうっとしていたが、午後に出来事が起こった。はたして午後4時に工場から出てくる労働者はだんだん多くなり、工場敷地内の芝生や道路上で集まった。いたるところにストライキに入った労働者があふれていた。このときは開発部、コンピュータ部、人事部、購買部など技術部ビルからはストライキ参加者はいなかった。
その後会社内に1台の車がやってきて人事部のビルの前に止まり数名の人が降りてきて人事部室に入っていった。
夜の9時になり、記者は以下のメモを入手した。それはスト開始時に見た紙にほぼ似ていた。
提議書(呼びかけ書)
親愛なるみなさん、以下の権益はわれわれが獲得すべきもので、誰かが施しをするというものではない。勇気を持って立ち上がり、自らの合法的権益を守る努力を共にしよう。われわれは中国に来て投資する外国企業がわが国の法律を遵守することをみな自覚すべきであると信じる。わが国の良好な投資環境と勤労の知恵のある人民は彼らに豊かな利潤と成果を与えることができる。われわれ労働者の正当で合法的な権益を守るために、われわれは現在日本方の会社代表と話し合いに入る必要がある。われわれは日本方が中国人の代表を派遣してきても承知しない。
われわれの獲得すべき権益とは以下の通りである。
1 賃金待遇 労働者の基本賃金は深セン市最低賃金標準(1か月560元)を下回らないこと。基本賃金には住居補助、食費補助、残業代その他の福利は含まない。
2 国家規定に従い、会社は全従業員について社会養老保険、工傷保険、医療保険、住居公積金および失業保険に入れなければならない。
以下10項まであるが省略する。
こののちこの記者は近くにいた労働者に聞き取りをしているが、それも省略する。
ここで当初の呼びかけ文には反日的なものはない。ただし、記者は中国人管理者(シニアマネージャー)や中国人の開発部マネージャーが労働者のストライキに対して押さえ込もうとし、彼らは「高級通訳」として日本人スタッフと一緒に住み食事をしていることに反感を覚えて非難している。また技術ビル内の中国人スタッフがストライキに参加しないが工場労働者に共感しているのではないか、共感していることを期待すると書いている。そこで、12月13日は南京大虐殺の67周年記念日との記述が出てくる。
ここから感じるのは、中国人が中国人を日本方のために管理する体制に対する反感が基調にあるのであって、本当に工場の労働者の権益保護を主張する労働組合があり、団体交渉を行なっていれば、ストライキにまでは発展しなかった可能性があるし、反日と結びつくこともないのではないかということである。
U社が労働法規や労働契約に違反していたかどうかと言う客観的事実は、U社の主張を聞かなければわからないので、あくまでも工場労働者の主張としては当初、このようなものであったと言う限度でご紹介した。
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