1 労働契約法成立過程で、2人の労働法学者が激しい議論を行なった。中国人民大学の常凱教授と華東政法学院の董保華教授である。常教授は労働者保護派であり、董教授は使用者保護派であるとされ、二人は個人的には仲のよい研究者仲間であるが、論争は激しいものである。董教授が契約法の適用場面として労働契約法をとらえるため、今回の立法で契約当事者の労働者側を保護する規定を突出して置く事は契約法の理念から認められないとする。一方、常教授は、弱い労働者を突出して保護する規定を労働契約法に盛り込むことが立法として求められているのであり、契約法の問題ではないとする。第一次草案公表後に明らかになった両教授の主張の対立ののち第二次草案が作成され(全人代に公表されていないが、現実には広く知られており、HP上も入手可能である)、そののち両教授の論争が再燃した。
2 まず労働契約法の適用対象範囲に関してである。
常教授は、労働契約法は、「国際慣例に照らして、公務員や軍人など特殊な関係を除き広く適用されるべきである。ただし歴史的原因から見て、事業単位が招いて任用した人材で長期間用いられてきた計画経済体制の人事管理モデルについては適用できない」と主張する。「たとえば幹部は政治的身分であると同時に経済的身分でもある。これは2つのラインの管理体制がおこなわれてきたのである。市場経済の発展の下では労働市場は統一したひとつの市場であることが要求されるが、事業単位で招いて任用した者は適用対象からはずすべきである」という主張である。
一方、董教授は、広く適用対象を広げることが重要で、事業単位は任用した高級人材などにも、またアルバイト(非全日制)の工場作業員などにも適用されるとする。ここで中国では労働市場と人材市場とは区別され、労働市場では雇用契約が、人材市場では聘用契約が結ばれることになる。後者の例としては、大学や研究機関の研究者、教授、病院における医師、新聞社における記者などがある。
3 次に無期限契約についてである。董教授は固定期限のない契約を強制した第1次草案は間違っていると指摘し、労働市場の自由な流動性が失われると警告する。また大学新卒者の就職難などの問題解決にプラスにならないと主張する。
一方、常教授は、「無固定期限契約は失業問題に影響を与えない。短期の労働契約関係こそが、労働関係の不安定を招いている原因である。労働者にとって働ける年齢を過ぎた労働者は無固定期限契約を結ぶ機会を失ってしまい、不安定な短期雇用しか就業機会がなくなる。」と主張する。
4 競業制限規定についても議論が分かれている。
董教授は高級人材については交渉力があるのだから、国が強制して競業制限規定が適法とされるための経済補償の額を決める必要はないと主張する。一方、常教授は、第2次草案から具体的な賠償標準額を削除するのはよくないとする。高級人材であり交渉力があっても、結局一人の人間であるから使用者と平等な立場で交渉できるとはいえない、と主張している。
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