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中国ニュース

6 経済


  • 書評(2) 中国ビジネスの参考図書

チャイナ・シフトの人的資源管理
白木三秀編著 白桃書房 20058

本書は早稲田大学特定課題研究(「東アジアにおける企業活動のグローバリゼーション」(2003年・2004年))および同大学現代政治経済研究所の外部資金による研究(「人的資源管理の総合的研究」2004年度)として2年間行われた研究会の成果に基づく。編著者は早稲田大学政経学部教授であり、各章の執筆者は9名の大学教授、講師、院生などである。
わたしは経済学者ではなく、全体を論評する力はないので以下、部分的な紹介に止める。中国で活躍するビジネスマンに参考になると思われるのは以下の各章である。
 第3章(斉藤陽子氏執筆)
 執筆者は、台湾企業の中国における人事管理には、次の3タイプがあると紹介している(なお、これは1999年の台湾の研究者江恵(令に羽)の修士論文「大陸台商管理模式之研究」の引用である。)
 @ 軍隊型管理 詳細な規則に記載された制度と罰則に基づく管理で大規模な工場の多数のワーカーを管理する方式。中国進出の多くの台湾企業はこの方式であったが労働争議の多発に伴い「人性化管理」(人間性重視の管理の意味)に転換した。
 A 家父長型管理 台湾の幹部がワ−カーの生活面まで配慮し緊密な関係を築き倫理観や生活態度まで指導を行う。報奨は利益だけでなく栄誉感を与えることも図られる。
 B 学級担任型管理 @とAの中間型。一定の規則を作り、かつコミュニケーションを図りながら教育指導をするが私生活には干渉しない。
 これら管理方式は、対象となる中国人の職種・業務内容により調整して適用される。すなわち中国人幹部に対しては、概ね学級担任型管理が多く、次に家父長型であるという。
1994
年から2001年にかけての調査・分析の結果であるが、中国各地区の工場の幹部のローテーションが給与水準の地域間格差と地方性法規の差異により困難である、あるいはそれが障害となっていると報告されている。一般作業員・オペレーターに対する管理は軍隊型管理が主流であり、営業職への管理は学級担任型が多い。営業職は職務内容に自由度があり不正行為の発生する可能性が高い。中国人熟練工・エンジニアは技術はあるが学歴は高くなく適当な報奨が有効のようである。
 第6章(于洋氏執筆)
執筆者は1997年以降の社会保険制度に関する各種通知、失業保険条例(1999年)を踏まえて、新しい(現行)社会保険制度には次の3つの特色が見られることになったという。
@ 非国有セクターの台頭に伴う、非国有・非集団企業への適用対象の拡大
A 政府・企業・被保険者の三者負担による財源
B 年金と医療保険に「個人口座」が導入され、保険料収入は「基礎口座」と「個人口座」に分けられるとともに支出の際にもそれぞれより支出される。「個人口座」は強制貯蓄の役割を持つ。
1999
年の現行の失業保険制度の特色は以下の通りである。
@ 都市部のほとんどの企業・事業単位の従業員が失業保険の適用対象になった。
A 保険料の個人よりの拠出
B 保険料率は雇用側が賃金総額の2%、従業員は本人賃金の1%。
C 保険基金の支出先が国有企業の下崗職工(レイオフされた労働者)に用いられている。
D 給付水準は1999年以降、最低生活保障より高く、最低賃金よりは低いように設定されている。失業前の所得水準には基づいていない。なお2001年度は最低賃金の4割未満であった。

9章(許海珠氏執筆)第10章(梅澤隆氏執筆)
この2章が本書のもっとも読みどころと思われるソフトウェア産業における人的資源管理であり、特に北京市のオフショア開発企業に絞った分析は参考になる箇所が多い(第10章)。
まず一般論として、中国のソフトウェア産業の人材構造は上流(プロジェクトマネージャー、システムアナリスト)と下流(プログラマなど)が不足し、中流(ソフトウェア設計、エンジニア)に人材が集中しているという特色がある。上流人材は大学院卒業以上を指し、中流人材は大学本科卒業程度を指す(第9章)。一方、北京市でのオフショア開発では、中堅マネジメント人材の不足が指摘されている。またブリッジSE(システムエンジニア)の役割の重要性も述べられている。オフショア開発は発注者が日本など外国のソフトウェア企業で、上流に当る部分は発注者側に人材が存在することが前提となっているのであろう。ブリッジSEは第10章で非常に重要な論述テーマであるので、独立した説明箇所が欲しかった。執筆者はソフトウェア産業の専門家であるので当然のタームと考えられたのであろう。窓口を日本に設けている北京のオフショア開発企業の例が紹介されており、「ブリッジ」の意味するところは、言語、開発手法の習慣、コミュニケーションなどまさに人的資源管理に係わることと思われる。ブリッジSEを掘り下げた論述をさらに読んでみたいと思った。

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