イタリアのジニという学者が考案した「ジニ係数」という所得格差をはかる指標がある。日本は元の所得のジニ係数はかなり大きい(値が大きいほど不平等で危険な値は0.4とされる)。しかし生活保護などの社会保障、公的年金などを加えた所得で見た場合に、OECD加盟の先進国の間の比較で、それほど高くない。
ただし近年、ジニ係数が上昇している(所得の格差が拡大している)のは間違いない。合衆国のジニ係数の上昇傾向は相当なもので、豊かな者はとてつもなく豊かになり、貧しい者はより貧しくなったようだ。クルーグマン教授は、合衆国で、まず低所得者がさらに所得が低下した事実を深刻に受け止めるべきだとする。
高所得者に富が集中した理由の一つとして、企業ファイナンスに関係して、年収数十万ドル〜数百万ドルの所得層が生まれたことを挙げている。
ある、株価が冴えず、株式配当も低調で、しかし実は潜在的に実力がある企業があって(この場合、経営者は高給を取っている場合もあるが、そうでない場合もある)、「経営者が交替し、経営も革新的なものになり、株主に高配当を宣言する」ことをポリシーとする者があらわれて株価を一気に上昇させ、旧株主や、経営者交代後に第三者割当を受けた新株主も最終的に株を売り抜けて大金を手にするというものだ。経営者の交代の仕方はいろいろあって敵対的な買収劇もあれば、そうでない場合もある。そしてこういう手法を常道とする投資会社をタックスヘブン(オフショア)に設立して、投資資金を投資家にとっても当該会社にとっても非課税で集めるというものである。
クルーグマン教授によれば、企業の支配の構造が変わるだけで、何ら技術も経営も変わらない(だから生産性も上昇したわけではない)のに社会で富がふえたように見える。その富はどこからやってきたのだろうという疑問がある。
日本でも村上ファンドがやろうとしたことは、阪神電鉄や放送局など潜在的には優良な経営資源の豊かな会社に狙いをつけて、それまで株主に対する還元が少なく、そういう意味でやる気のない会社の株価を一気に吊り上げるべく株の買い付けを行ったわけだ。合衆国の例でも、こういう手法の投資家(投資会社)は何ら道徳的に非難される行動をしているわけではなく、社会の富を増やしているという高名な経済学者もいるらしい(クルーグマンは、それは眉唾物だといっている)。
中国が最近ジニ係数を初めて発表した。それも2003年から2012年までの毎年の数値を発表したのである。0.4を上回っているから、格差の拡大で暴動が起こっても不思議ではない危険ラインらしい。人民日報によれば政府は所得再分配の政策を実行するべく検討を重ねているようだ。組合が機能しておらず、労働者に賃金の上昇に向けた交渉力に乏しいことが挙げられている。
ジニ係数の発表は勇気ある行動だが、2012年の数値が2011年の数値より、少しだけ下がったから(それでも、両年とも危険ラインの0.4を上回っているが)、公表することにしたのだろうか。
中国で所得の大きい上位者は誰か、彼らは道徳的に問題なく(そして社会主義思想に反することなく)莫大な所得を得たのか気になるところだが、人民日報は触れていない。中国の国有資産(国有企業の株式は代表的な資産である)の管理や処分を監督する官庁があって、一応チェック機能を果たしているようだが内実はわからない。
それでも、遅すぎたとはいえ、ジニ係数の公表が勇気ある情報公開であることは間違いないから中国政府を少しほめてあげたい。
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