現代中国の「人材市場」
日野みどり著 創土社 2004年2月10日
人材とは高学歴の管理職・専門職のことであり、一般労働者とは区別される。人材市場と労働力市場とは明確に区別されている。共産党員などの幹部とは重なる部分もあるがイコールではない。中央政府の法規より地方政府の条例などに1990年代後半より、人材市場管理条例などが多数あらわれるようになった。著者は社会学の手法で人材市場につき、調査を行い分析をしている。わたしが関心を持ったのは、人材と派遣機関の関係、档案と人材の関係であり、また人材と労働争議の関係であった。
まず派遣機関についての説明がなされている。地方政府が人材資源の適切な配置と供給という視点から管理条例を定め、そこに「流動」がキーワードとして重要な視点を与えている。人材流動服務機構は人材市場(求職・求人の機構)としての役割と、人事代理の役割とをあわせ持つ機関である。これは国家幹部の人事管理を担当していた部門が政府の外郭部門となったもので、個人の档案の管理という任務も行う。国有・公有企業から非公有企業へ転職する際に、档案の行き先が無く、転職の障害となっていた。これを解決する役割も果たしたのである。ここらあたりの叙述は丁寧でわかりやすい。
著者は上海、広州などの都市における人材市場を調査し、档案管理についても適宜触れている。興味深いのは、各地の人材市場がサービス内容を多様化し、かつ向上させていくことである。また政府系の人材市場以外に民間系でも同様の求職求人サービスを行う企業が現れる。
また政府内に人事部門と労働部門が並存し、扱う分野が競合・重複しているとの指摘も興味深い。人材においては労働契約ではなく聘用契約であり、紛争が起きた場合の呼称は、労働争議ではなく人事争議である。
政府は档案管理の強化を試みるが、管理のずさんさや偽造の档案の出現など問題が多く、また档案を人質にとって職員の転出を阻止する例が国家機構内部でも起きたことが紹介されている。このように人材市場、派遣機関、档案などの問題は歴史的経緯と中央政府および各地方における政策がからみあっている。
中国で活躍する日本人ビジネスマンは、国有公有セクターから高級人材を招きいれたときに、雇用に際しての档案の所在や、適用される法令につき戸惑った経験があると思う。社会学的視点から調査分析された本書は、必ずそれらの理解の一助となるであろう。
(文責 尾近正幸)
中国ニュース一覧へ戻る
|
|
Copyright(C)2010,Ochika Law Office. All Rights Reserved.
|